「違います、目覚まし時計が寝坊したんです」

まだ覚醒しきっていない頭でそう言い眠気を醒まそうとコーヒーを口に含んだわたしの頭を鍾会さんが叩く。尋常じゃなく痛い、やつは本気であった。

「目が醒めたか」
「…お陰様で」

遅刻ギリギリで着いたのだからまあ良いじゃないかと思う。今日は運が良かったのだ。グッジョブ信号、ナイスラン私。きっとわたしの日頃の行いが良いからなのだろう。

「まったくだらしない。目覚まし時計がなければ起きることもできないとは」
「え、目覚まし時計なくても起きれるんですか!?」
「当たり前だ。私は英才教育を受けているのだからな」

寝起きの問題で英才教育は関係ないと思うのだが、言ったところで理不尽に怒られるだけだろうとわたしは出かかった言葉をほろ苦いコーヒーで流し込んだ。

「大体わたしが布団から出られないんじゃなくて、布団がわたしを離してくれないんですよ」
「社会の屑が」

あんまりである。そりゃ鍾会さんに比べりゃ下っぱのわたしは屑かもしれないが、こう面と向かって言われると堪えるものである。

「いつか鍾会さんより偉いひとと結婚して鍾会さんを見下せる日が来ればいいのに」
「貴様に結婚など無理だな」

ピシャリと言われてしまった。悔しいがどうにも反論できない。

「そりゃ私みたいなのを貰ってくれる人なんているわけないですよね…」

虚しくなってがっくりと項垂れれば、鍾会さんは慌てたように吃りながら口を開く。

「ま、まあ、貴様のような凡愚な者を養えるのは私くらいしかいないだろうな」
「えー、嫌です鍾会さんみたいなナルシストなんて」

ぴきりと音をたてて鍾会さんが止まった気がした。私の何処がナルシストだと言うのだと怒り出した上司にため息を吐くとカップの中のコーヒーが揺れた。

「私は将来有望なのだ。いずれは頂点に立つ日も来るだろう」
「なんか今すごい野望を聞いちゃった気がします」
「貴様がどうしてもと言うなら、私の隣に立つことを許してやってもいいぞ」
「給料はどのくらい上がりますか?」
「そ、そういうことではない!」

これだから凡愚はと再び怒り出した鍾会さんから目を逸らして半分くらい残ったコーヒーを一気に飲み干した。その間に目を泳がせながらそのとかだからとかブツブツ言っている鍾会さんをぼんやりと眺める。耳まで真っ赤にした鍾会さんは口を開いてからすぐ目を逸らして、暫く俊巡したあと意を決したように真剣な表情で此方を見てきた。

「だから、相手がいないというのなら私が貰ってやると言っているのだ!」
「…間に合ってますと言ったら?」
「なっ…他に相手がいるというのか!?」

目を見開いた鍾会さんは、さっきまで吃っていたのが嘘のように目をつり上げ手首を掴んできたものだから驚いて目をぱちくりさせる。

「誰だ、そいつは」
「え、あの、」
「まさか…トウ艾か?トウ艾だな?トウ艾だろう。やはりな、おのれあの旧式め。前々からいけすかない奴だと思っていたのだ」

今にも殺しに行きかねない鍾会さんに慌てて違いますと弁解する。相手などいないしさっきのは冗談だというのに、ここまで怒るとは予想外であった。冗談も通じないとはまったく世話のかかる上司である。

「いいか、お前は私のものだ。他の者の隣に立つなど私が許さん」

随分と勝手なことを言われたのに不覚にもきゅんとしてしまったのだから、もう私の脳も心もぜんぶこの人のものになってしまったようであった。

利用される脳
110605
だいすきな佐藤さんへ!
一万打おめでとうございます!佐藤さんと佐藤さんの書くお話が本当に大好きです!これからも応援しております。救いようのない変態なしいこですが、これからもよろしくしてやってください!
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