「子を身籠るにはどうすれば」
「んなあ!?」

人の部屋に押し込んでくるなり突然そんなことをのたまってきた副官の女に、危うく完成間近であった書簡に墨を垂らすところであった。寸でのところで筆を動かし事なきを得たが、机にはぽたりと墨がついてしまった。

「どうされたんですか」

呆れたように呟き女官に布巾をもってくるよう指示をした女に貴様の所為だと怒鳴りつければ、心底意味がわからないといった表情で此方を見てきた。

「私、何か可笑しなことを言いましたか?」
「ああ、言った。とてつもなく可笑しいことをな。…そもそもなぜ私にそんなことを聞く?」
「英才教育を受けてらっしゃる鍾会殿ならご存知だろうと思った次第です」
「…貴様、一体どんな教育を受けて育ったんだ?」
「はあ、別に。特に変わりはないかと」

そんなわけあるかと鍾会はため息を吐いた。丁度そこで戻ってきた女官が机を拭いていく。その様を眺めながら女を見やれば、何が可笑しいのかを真剣に考えているようであった。再びため息を吐き、拭き終わった女官に下がっていいと告げれば恭しく礼をして去っていった。こいつもこのくらい礼を正していればマシなものを…

「それでですね、父と母に聞いたのですが、」
「聞いたのか!?」
「はあ、はい。お前は川から拾ってきたのだと言われました」
「……」
「鍾会殿も川から拾われたのでしょうか?」
「そんなわけがあるか!!」

ふざけるなと竹簡を投げつければ何食わぬ顔をそれを受け止めてきた。

「なるほど、英才教育を受けた方は生まれ方も違うのですね。では鍾会殿はどのように生まれてきたのでしょうか。どうか教えて下さい」

ずいと身を乗り出してきた女に鍾会は仰け反った。顔に熱が集まっていく。一体なんなんだこの女は、誰が連れてきたんだ!?表情の変化もあまりなく、なにを考えているのかがわからない。この女が副官についてから鍾会が考えを読めたことは一度もないのだ。本当に、なぜ自分はこの女を気にしているのかがわからない。

「そ、それはだな…おしべとめしべ云々、というやつで…」
「はあ、花が関係しているのですか?」
「いや、それは例えでだな」
「さすがは英才教育を受けた鍾会殿ですね」

何故か知らんが納得したらしい。この女は本当に思考が読めない。

「で、それを知って貴様はどうすると?」
「いえ、そろそろかと思いまして」
「何がだ」
「ですから、そろそろ鍾会殿の子を身籠りたく」

…こいつは今なんと言った?身体中がかっと熱くなっていくのを感じた。本当に、こいつは読めない。

「…正気か?」
「はあ…まあ、多分」

締まりのない返事にため息を吐いた。本当にどんな教育を受けたのか気になるが、知りたくはないなと思い直した。

「何故私なんだ」
「何故、と言いますと?」
「いや、それは…」

私ではなく他の者でも良いだろう。そう言おうと開いた口を鍾会はゆっくりと閉じた。喉が詰まる。何故。この女が他の男のものになると考えるととてつもない不快感が胸を支配した。今まで味わったことのない初めての感覚に戸惑っていると、女がゆるりと鍾会の手を握ってきた。

「鍾会殿でなければならないのです」
「な、何故だ」
「それは…」

今まですらすらと言葉を発していた女が、ここにきて初めて頬を赤らめ言葉を詰まらせた。恐らく初めて見るであろう、表情の変化だ。この反応は、期待してもいいのだろうか。

「…いや、言わなくていい」

自分から言わねばならないだろうとそう告げれば、俯きほんのりと頬を染めた女がゆっくりと顔を上げた。滅多にみない表情に胸は高鳴り、言おうと決めた言葉が気管に詰まった。

「…………その、だな」
「は、い」
「…………………す、好きだ」

これだけ時間をかけたのに言えたのはたった三文字だけあった。それでも女は嬉しそうに目を細めたものだから、使えない口先を彼女の額に押さえつければ、ふわりと彼女が笑った気がした。

すきにちぎってね


これ、鍾会さんじゃないですね、別人ですね、偽物ですね。…いや本当にすみません!
川から拾ってきたとか、昔親に言われませんでした?わたしの友達もみんな言われたって言ってるんですけど(笑)

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