いつものわたしなら喜んで頂いていたであろうお菓子を断ると、夏侯淵部長は怪訝そうな目で見てきた。

「なんだなんだ、ダイエットか?」
「デリカシーないひとはきらいです」

的を射た言葉につんとそっぽを向いてそう言えば、部長は参ったなあと頬をかいた。
好きな言葉は半額大盛りカロリーオフなわたしが何故ダイエットなんてものをしてるかっていうと、恋なんてものをしちゃったからである。皆が驚くだろうが一番驚いたのはわたしである。まさかわたしも女だったなんてなあなんて馬鹿みたいに考えていたのだ。

「何が困るんですか」
「これ、賞味期限間近」
「部長っていっつも残り物わたしに押しつけますもんね。わたしは残飯係ですか」
「いや、まあ、…なあ?ハハハ」

ハハハじゃないやい。苦い笑いを浮かべている部長を睨めば部長は言葉を詰まらせた。それから言いにくそうに口をもごもごさせたあと差し出されたのは綺麗に包装された箱であった。高級そうな箱の中に入っているものを想像するだけでお腹が鳴りそうだ。

「これは貰ってくんねえか」
「なんですか、賞味期限間近ですか」
「いや、賞味期限はまだまだ余裕だ」
「では消費期限ですか」
「いや、消費期限もまだまだ余裕だ」

わたしの厭味に困ったように返す部長にそうですかと箱を眺めていると、ほらと押しつけられ思わず受け取りそうになって、慌ててぶんぶん首を振って押し返した。

「結構です。部長が食べればいいんじゃないですか」
「いや、これは俺からじゃなくて社長からでよ…」
「…曹操社長から、ですか?」

ダイエットの原因となった人の名前に押し返す力が弱まる。そこを好機とばかりに箱を押しつけ無理矢理握らされた。

「そういうわけだから貰ってくれよ、な?」
「なんでまた社長がわたしみたいな下っぱなんかに…」
「本人に聞けよ。じゃ、俺は仕事の続き続き」

書類出せよと手を振り逃げるように去っていく部長にため息を吐き、給湯室の扉を開ければ、いきなり後ろから押されたものだから驚いて舌を噛みそうになってしまった。無理矢理わたしを押し込み入ってきた人物は即座に給湯室の扉を閉める。後ろから鍵を閉める音が響いた。

「ちょっと、何するん…って、社長!?」
「いや、夏侯惇に追われていてな」

また例の如く執務から逃げ出してきたらしい。驚かせてすまんと笑う会長に、名前は急に煩くなった心臓の部分を押さえながら小さくいいえと返すので精一杯だった。

「名前は何をしておったのだ」
「あ、えと…そ、そうです!これ、お返しします!」

ぐいっと持っていた箱を差し出せば、会長は目を見開いてからすぐ、納得したようにああと呟いた。

「返す必要はない」
「でも、えと…こんな高そうなの、いただけませんし」
「そう言わずに開けてみるがいい。名前が好きだというお菓子ばかりをわし直々に集めたのだ」
「えっ」

その言葉に慌てて、でも丁寧に包装を剥がし箱を開ければ、マカロンにチョコ、クッキーなど、どれもわたしが好きなものばかりであった。「わあ…!」感嘆のあまりもれた声、自然と頬もゆるむ。

「ふ、いい顔をする」
「 へ?…あ、いえこれはヨダレなんかじゃないですえっと、…胃の…汗…?」

数秒の沈黙が流れる。これは冗談抜きで胃だけでなく身体中から汗が吹き出そうだ。それだけ汗を流せれば痩せられるだろうか。なんて思った次の瞬間には社長は豪快に笑いだした。ヒィ何があった医者を呼べ!

「気に入って貰えたようだな」
「…はい、ありがとうございます」

ぽんぽんと二回、優しく頭を叩かれた。ふっと柔らかくなるこの表情。ああ、この顔が好き、ふいに見せる優しさがすき。あんまり関わったことはないけど、やっぱりわたし社長が好きなんだなあと改めて実感。これは痩せなきゃだめだ!と再び自分に渇を入れた。
それにしてもこのお菓子、どうしようかとお菓子とにらめっこしながら悩む。

「名前よ」
「 あ、はい。なんでしょう?」
「わしは名前が美味そうに菓子を食する顔が好きでな」
「はあ………ハァ!?」

お菓子に夢中で生返事になってしまったが、今とんでもないことを言われたのではないか。衝撃的な台詞が脳内で何度も再生されそれを理解した瞬間に思わず叫び二・三回ほどガン見してしまった。

「見ていると落ち着くのだ」
「あ、あの、曹操社長…?」
「孟徳と、呼んではくれんのか」

くいっと顎を持ち上げられ距離が縮まる。鼓動が尋常じゃなく速い。このままでは心臓を吐き出してしまいそうだとお菓子の箱を身体の前で持ち距離を稼いだ。だがそれも腕を掴まれ心臓が更に忙しくなるものだから逆効果であった。

「…細いな」
「え、」
「痩せる必要などないではないか」

予想外の言葉に眼球が乾きそうなほどに目を見開く。些細な言葉でも嬉しくなってしまうわたしはやっぱり社長が好きなんだと実感した。

「ありがとうございます…でも、やっぱりわたし太ってますよ」
「何を言うか。わしはちょっとばかしふくよかなほうが好きだぞ」
「えっ」

触角をリボン結び
曹操社長ってデブ専だったんですか。そう訊ねたわたしの頬を曹操社長がつねったのでやっぱりもう少しダイエットしようと思った。


アンケートにあったリーマンパロをやってみました。しいこ、初の試み。…ぜんぜんリーマンじゃなくね?…うああソソ様大好きだあああああ!
▼しいこは イイニゲ を つかった!
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