「仲達、これでも食ってろ!」

旅行から帰ってきた名前は、お土産らしいそれから一つを取り出しぶん投げてきた。小さなそれを受けとれば、白い丸みと桃色の頂が見えた。

「…これは、」
「おっぱいちょこでーす!」

同じ物を自分の胸へとあてがい親指を突き立て片目をばちこんと瞑ってきた茶目っ気たっぷりの名前に馬鹿めと叫び全力でそれを投げれば、なんとも不運なことに廊下の角から曲がってきた曹丕の頭にクリーンヒットしてしまったもので、司馬懿はあいたたたたと頭を抱えた。此方を一睨みしてから落ちたそれを拾い上げまじまじと見た曹丕の顔といったら、この世のものとは思えぬほどの恐ろしさであった。

「ほう、仲達よ。お前も漸く興味を示したか」
「違います、子桓様。それはこの馬鹿が勝手に投げてきたものです」
「あまりに女の気配がないから、私はお前が勃起不全なのかと思っていたが…私の杞憂だったようだ。よかったな、名前」

何故そこで名前が出てくるのかわからないが、とにかく今はこの厄介な誤解を解くのが先であろうと、曹丕の言葉に何故か嬉しそうに頬を染めて頷いている名前をぶっ叩いた。

「仲達よ、名前に手を上げるとは…そんな風に育てた覚えはないぞ」
「育てられた覚えもない…!」
「仲達、落ち着こうよ」

顔を真っ赤にして怒っている司馬懿を見兼ねそう言えば、貴様の所為だと怒鳴られる。ほんのジョークなのにここまで怒ることはないじゃないか。やれやれとおっぱいちょこを口に放り込む。

「ん〜、おいしっ仲達も食べてみなよ」
「いらんわ!」
「そんな…せっかく買ってきたのに…」

涙目で訴えてみたが、司馬懿はふんと鼻を鳴らしただけだった。コノヤロウ、わたしのお色気が効かぬとは…

「なかなか美味いな」
「でしょ〜!」
「仲達よ、貴様も食せ。これは命令だぞ」

曹丕さんの命令に逆らえる筈もない司馬懿は、わかりましたと疲れたような声で告げ封を切った。なんだかシュールな光景だ。

「名前の胸だと思って食すがいい」
「んなぁ!?」

今まさしく口に放り込もうとした司馬懿に爆弾発言をかました曹丕は愉快そうにくつくつと笑った。哀れおっぱいちょこは地に落ちる。地面から突き出たおっぱいちょこはなんだか妙に面白い。名前は持ち前の三秒ルールを駆使してこれを拾った。

「な、何を言うんですか子桓様!」
「貴様こそ何を言う。こういうものは好いた女を想像するのが男というものだろう」
「なるほどね〜」
「なるほどね……?」

納得した名前の言葉を繰り返す司馬懿はなかなかに滑稽であった。

「いや、そもそも私がいつこのような凡愚をすす、好きになどなったのですか!」
「なんだ、今更。そのようなこと皆が知っているぞ」
「皆が…!?」
「えっ 仲達、わたしのこと好きなの!?」

衝撃の事実に言葉を失った司馬懿を他所に、名前はわーい両想いだあ!などと嬉しそうにはにかむものだから、必死に言葉を発しようとした口はただぱくぱくと動くだけであった。にやにやと意地の悪い笑みを浮かべている曹丕がひどく癇に障る。

「それじゃあこれ、食べて!はい、あーん」

ふにゃりとだらしなく頬をゆるめた名前はチョコの先端部分である桃色の頂を司馬懿の口元へ向けた。その桃色よりも頬を紅く染めた司馬懿に曹丕はそれはもう愉快そうに笑んでいる。

「……ば、馬鹿めがああああ!」

ぱくぱくと酸欠の金魚のように開閉を繰り返していた口から漸く出た言葉は苦し紛れの罵倒で、次の瞬間には名前の小脇に抱え込まれた箱ごと奪い取り勢い良く走り去ってしまった。あっという間に小さくなった司馬懿に、名前は暫く突っ立ったままぽかんとしていた。

「…き、嫌われちゃった?」
「ふん、仲達が名前を嫌う筈がない。あれは照れ隠しというやつだろう」
「はあ、なるほどね〜」

今日は学べることが多いなあなんて考えながら司馬懿が走り去りとうに見えなくなった方向を眺め、持っていたチョコを口に放り込んだ。明日からが楽しみだとくつくつ笑う曹丕に、わたしも明日からが楽しみですと返し笑い合った。本当に、明日からが楽しみだ。

ぐらぐら構造


楽しみの意味が違うと全力で突っ込む司馬懿さんはおっぱいちょこ片手に真っ赤になってます。……すみません、ほんとこんな話ですみません。この二人が大好きなんですけどこんなんでほんとすみません。王子さまに振り回される司馬懿が大好きなんです。おっぱいちょこ何気美味しいですよね(笑)いやまあちょっと甘過ぎるけど…
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