別に野菜を育ててることは良いのよ。ええ、良いですとも。好きにおやりなさいな。ただね、口で言うのも恐ろしいあの紫の悪魔を何故作っているのかしら、理解に苦しむわ。
窓から吹いてきた風がほのかに甘い香りと井草の香りを運んできたが、そんな清々しい空気はこの部屋にいる人物によって霧散する。美しい容姿からは想像もつかぬほどにぽんぽんと我が儘を吐くのがこの娘であった。これに毎日付き合わされる方の身にもなれという話だ。
聞いているの小十郎と捲し立てる娘に、理解していただかなくとも結構だと言い放てば、気だるげに動いていた扇子がぱちんと音をたてた。
「なあに、その態度!」
「あのな、野菜を作っても良いなら、茄子」
「その名前言っちゃだめだってば!」
「…何を作ったって俺の勝手だろう」
そう言えばむすっと口を尖らせ黙り込んだ。これでは大きな幼子である。まったく、政宗様は甘やかせすぎなのだとため息を吐き出した。だって。小さく聞こえてきた声に振り向けば、顔を真っ赤にした娘が着物の袖を握りしめ唇を噛み締めていた。
「だって、小十郎野菜ばっかりでぜんぜん構ってくれないじゃない」
「……」
これはやきもちと取っていいのだろうか。目尻に涙を溜めた様子にため息を吐き出せばぴくりと肩が揺れる。
「ご、めんなさ…い。我が儘いって」
今更すぎる言葉だが普段の彼女からは考えられぬ言葉に目を見開いた。唖然としてる間に娘はぽつりぽつりと話し出す。
「ほんとは茄子も食べれるの。でもきらいな振りしてた。そうすれば小十郎、構ってくれるじゃない」
「…本当に我が儘だな」
言って頭をくしゃりと撫でれば、今まで溜まっていた涙がぽろりと頬を伝っていった。
「なら、おめえも野菜を作りゃいい」
「…え、」
「そうすりゃ一緒にいられるじゃねえか」
まばたきも忘れているのかという程に目を見開いていた娘は、次の瞬間には年頃の娘にそんな提案するなんて!といつもの調子で言ってのけた。泥だらけになるのは嫌よと再び我が儘を言い出したので頬をつねってやる。
「いひゃい、いひゃい!」
「何処の我が儘娘だおめえは。まったく政宗様は甘やかしすぎだ」
面白いくらいに伸びる頬を離せば、娘は痛そうに頬をさすった。
「我が儘じゃないわ!わたしは小十郎がすきだから傍にいたいだけ!」
「は、なら俺がその我が儘を矯正してやる」
不覚にも熱くなった頬を隠すように体を引き寄せれば、抵抗もなくすっぽりおさまる。自然と頭を撫でようと動いた手に、なんだ、甘やかしているのは自分もじゃないかと苦く笑った。
溶けた右脳
110719 「キミハナ」様に提出
花言葉がだいすきなのでこんな企画に参加してみたいとおもってました。デンドロビウムは高校のとき保健室にあったのをみて好きになったお花です。白の可愛らしいお花でした。花言葉は「わがままな美人」
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!