「名前はメロンソーダが好きだからな。それにしよう」
「じゃ、俺もそれ、」
「いや、貴様はキャラ的にいちごみるくぞ」
「は!?」
「名前はいちごみるくも好きだぞ」
「…い、いちごみるく」
「もっとはっきり」
「いちごみるく!!」
何が悲しくてこんな大声で注文しなければならないのだろうか。しかも注文はいちごみるく。これは何かの拷問か。店員が小さく笑ったのを元親は見逃さなかった。でかい図体の元親がいちごみるくを、しかも大声で頼むのだから笑ってしまうのも無理はない。それでも、目の前で凶悪な表情でほくそ笑む元就に比べたら可愛いものである。
「我は手洗いに行ってくる」
「おう」
飲み物が届いてから抹茶パフェに手もつけず携帯片手に行った元就に、何故だか少しの違和感を感じた。目の前の甘いものに口をつけずに行くなんて珍しい。抹茶パフェ溶けちまうんじゃねえか。すこし食ってやろうかとスプーンに手を伸ばす。
「あれ、長曾我部、さん?」
「あァ?…って、名前!?」
戻ってきたのは元就ではなく予想外の人物であった。
「あの、お兄ちゃんに呼ばれて来たのですが…」
「ああ、今、トイレに…」
「あ、そうなんですか」
とりあえず座れよと促せば、小さく失礼しますと元就の座っていた場所に腰掛けた。
先程から元就が携帯をしきりに弄っていたのはこういう訳か。ふざけるな、よりにもよっていちごみるく頼んだときに呼びやがって。感謝なんてしてやんねえぞ。
悪態をつきつつもこの状態に混乱しているのは確かであった。せっかく二人きりだと言うのにどうにも落ち着かない。早く戻ってこいと元就のいるであろうトイレを睨むが、彼が戻ってくる気配はなかった。かわりに出てきたのはおっさんで、思わず溜め息がもれた。
「…やっぱり、私といてもつまらない、ですよね」
「は?」
「だって元親さん、さっきから睨んだり溜め息吐いたりしてるから…」
とうとう涙目になった名前に元親は焦って困ったように頭をかいた。
「い、いや、そんなこたぁねえよ!お前の笑顔見てると、なんつうか、癒されるしよ!落ち着くんだよ」
だからそんな顔しないでくれよと自分でも信じられないくらい情けない声が出た。
「ほんと、ですか?」
「おう!あたりめぇよ!」
「そっか…ふふ。ありがとうございます、長曾我部さん」
嬉しそうに微笑む名前を見て、やっぱ好きだなあなんて思ってしまうあたりもう重症である。
「これ、食べてもいいですか?」
彼女が指差したのは溶けかかっている抹茶パフェ。肯定を示すといただきますとスプーンに手を伸ばす。美味しそうに食べる彼女は本当に幸せそうで、もう長いことトイレにいるであろう元就のことなんかどうでもよくなってしまった。ふと彼女は俺の前にある甘ったるいピンク色の液体を見て目をぱちくりさせた。訂正、元就はどうでもよくなんてなかった。
「いちごみるく、好きなんですか?」
「あ、いや…」
元就が頼んだことにしようかとか言い訳を考えていると、私も好きなんですよ!と弾んだ声で言ってきたものだから、あっ俺も!なんて返事をしてしまった。俺のばかやろう。女みてえとか思われただろうか。なんだかやるせない。元就を恨んでやろうかなんて考えていたら彼女は小さく笑んでから再び抹茶パフェを食べはじめる。
「なんだか、意外ですね。長曾我部さんがいちごみるく好きって」
「わ、悪いか?」
少し意地の悪い返し方になってしまったかと後悔しかけたが、存外柔らかくいいえと答えが帰ってきたので拍子抜けしてしまった。
「なんだか、可愛らしいですよ」
「男にそう言われても嬉しかねえよ」
「あ、いえ…なんというか、親しみやすくていいですよ!」
私男の人って苦手なんですけど、長曾我部さんとなら仲良くなれそうです、なんて笑顔で言うもんだから、元親はいちごみるくを一気に飲み干した。もう随分と長くトイレにいるであろう元就を拝まずにはいられなかった。元就、マジ感謝してる。
粉砂糖で彩る宇宙
(言っておくが、我はまだ認めたわけではないからな)
(えっ)
(貴様と義兄弟なぞ気持ち悪い)
(結婚前提かよ)
(…長曾我部さんとなら、いいかも…)
(えっ)