願いは届かぬ、

「名前、そなたは、生きよ」そう言ってあのひとは動かなくなった。いつも私を包んでくれていたぬくもりが消えないようにずっとずっと手を握っていたのだけれど、もうひんやりと冷たくなってしまった。ぽたり、ぽたり、しとどに濡れる頬から落ちたそれは、もう冷たくなって動かなくなった手を濡らしていった。わたしが泣くたびに優しくぬぐってくれた手、膨らんだお腹をいとおしそうに撫でてくれた手。あんなにあたたかかったのに、今はもうこんなにも冷たい。
ああ、ああ、文遠様。貴方様はやはり卑怯な御方です。泣き虫なそなたと、そなたとの間に授かりし子を置いてはいけぬな。そう仰っていたではありませんか。わたしは貴方様がいなくては生きていたってなんの意味もないのに、なのに、そんなわたしに生きろだなんて。――いいえ、わたしは生きなければならないのですね。わたしはわたしを殺すことをできても貴方様との子を殺すことはできませぬ。ああ、ほんに貴方様という人は、最期までなんて卑怯な御方なのでしょう。生きる理由は与えても、死ぬ理由を与えてはくれぬと云うのですか。

優しい世界は死んでしまった
あなたがいなくても生きていけるけど、しあわせにはなれないよ
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -