ゆらゆらと揺れる、白いもやもやしたそれを吐き出す口をマフラーにうずめる。雪はもう殆ど溶けたけど、寒さは相変わらずだ。少し長めのスカートから入り込む風が冷たい。このセーラー服を着れるのも、あと少しなんだなあ。春がきたら高校生になるのだ。そしたら、みんなともお別れなんだ。
物思いに耽っているとキキッという音が私の鼓膜を震わせる。隣を見ると自転車を止めた甘寧がよっと手を挙げていた。


「あああ!雪なくても自転車は乗っちゃ駄目なんだよ、ば甘寧!」
「ばーか、俺は冬タイヤだから乗ってもいいんだよ」
「え!そうなの?」
「おう!」


ってそんなわけない!どや顔でそう告げた甘寧に、そんなわけないでしょと私は背中を叩く。こんな風にふざけて笑いあえるのも、あと少しなんだなあ。自転車を押してくれる甘寧と並んで歩くのも、もうすぐ終わるのだ。


「あと少しで卒業だな」
「そだね」
「高校違えけどよ、卒業してからも遊んだりしようぜ!名前といると楽しいしよ」


何気なく言ったであろうその言葉に、ぐらりと心臓が揺れる。ああ、もう。なんでそんなこと、言うのかなあ。あんたがそんなこと言うから、私はいつまで経っても諦めきれないじゃないか。
おっ。隣から弾んだ声が聞こえてきた。こんな嬉しそうな声音、私と一緒のときは聞けないのになあ。


「行ってきなよ、甘寧」
「おぅ、わりぃな!」


再び自転車に乗った甘寧は手を振って通り過ぎていった。冷たい風がすり抜けていく。じわりと冷たくなったのは、風のせいだけじゃない。
楽しげに挨拶を交わす甘寧と、おんなのこ。甘寧が好きな、大切な子。痛いくらいに、幸せな光景。見たくないのに、目が離せない。吹き抜ける風がずぶずぶと身体に当たって、鈍い痛みが身体中に突き刺さる。
さっきの私とおんなじ隣にいたのに、あんなに表情が違うなんて気づきたくなかった。好きだなんて、気づきたくなかった。でも、私は気づいてしまったのだ。私の心臓は甘寧でいっぱいで、忘れようったって無理なのだ。この鉛みたいに重い心臓は、ちっとも溶けてくれやしない。

せつせつと降る心が溶けない

----------
雪の中チャリで来る男子まじ勇者だと思ってました。怖いじゃん滑ったら転倒するじゃん…
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -