「…形あるものはいずれ崩れるものですわ」
窓から物憂げに景色を眺めていた女は誰に言うでもなくそうぽつりとこぼした。その言葉を拾い上げた司馬師がそれが世の常だからなと返せば、女は窓に向けていた視線を司馬師へ向け微笑んだ。
「されど、あたくしは気づいたのです。崩れゆくものをただ嘆き悲しんでいるだけではならないのだと」
「……」
「大事なのは、失ってからそれをどう受け止め、前に進んでいくかということだと、気づいたのですわ」
それからゆっくりと扉に向かって歩き出した女に、貴様にしてはなかなかまともな考えだなと告げれば、くるりと振り返り笑みを深めた。
「あら、お褒めに与り光栄で」
「だが、私の肉まんを食べた言い訳にはならぬぞ」
「…あら?」
バレてましたのと問われたのでふっと微笑めば、女も微笑んだ。引きつってはいたが。暫く笑いあいながら再びゆっくりと扉へ動き出す女を塞ぐように扉の前に立てば、女の顔から貼りつけていた笑みがとうとう消えた。
「覚悟はできているのだろうな」
女の引きつった顔はなかなかに見物であった。