陸遜に呂蒙の書生である名前の前だと上手く話せなくて心臓が煩いのだがもしやこれは何かの病なのかと相談されたのがつい先刻で、書簡を届けに来た名前を見た途端に顔を赤く染めた陸遜に名前が首を傾げているのが今現在のことである。
ここまで慌てている陸遜というのもなかなか珍しいもので、呂蒙は喉の奥でくつくつと笑った。

「陸遜様、大丈夫ですか?」
「大丈夫、じゃないです…」
「えっ」
「大変です、心臓が不整脈です」
「そんな…呂蒙様、陸遜様はご病気なのでは!?」

くつくつとさも愉快げに笑っていた呂蒙は、今度は苦い笑いを浮かべる。それは病といえば病なのかもしれないが、二人が想像しているようなそれでは決してないだろう。吃りながら名前の名前を呼ぶ陸遜の声を聞きながらさてどうするかと呂蒙が考えていると、陸遜様が死んじゃいやですと名前が泣き出したものだから、思わぬ展開に呂蒙の口元からはとうとう笑みが消えた。

「な、泣かないでください、名前。私は貴方に泣かれると、心臓が更に痛く、」
「わ、私の所為で陸遜様の病が悪化して、…うう、」
「落ち着くのだ、名前。陸遜は死にはしない」
「、本当ですか!?」

ぱあっと、陳腐な表現かもしれないが、花が咲くような笑みを零す名前に、陸遜は再び顔を赤く染めた。これは間違いなく、恋というやつだろう。陸遜も厄介な相手に恋をしたものだ。名前の鈍さは天下一だと言える自信が呂蒙にはある。

「病といえば病かもしれんが、決して死ぬような病ではない」
「び、病名は…?」

名前のみならず陸遜までもが真剣な顔つきで問うてくるものだから、陸遜も鈍さの天下一に名乗りをあげそうだと呂蒙は思い切り溜息を吐き出したくなった。

「…こればかりは、自分で気づくしかないな」
「そんな…」

頭を垂れる陸遜には申し訳ないが、これは自分が言うことではないだろうと呂蒙は口を閉ざした。

「陸遜様、落ち込まないでください!」

私も医学書を引っ張り出して病名を調べますから!あまりにも間違った方向へと行く発言をした名前の健気な姿には目頭が熱くなる。残念ながら医学書にはのっていないのだと伝えれば、陸遜は漸く思い当たったのか暫く真剣に考え込み、それから顔を真っ赤にさせた。

「なるほど、そういうことですか…」
「えっ陸遜様、わかったんですか?」

陸遜はその問いには答えず、真っ直ぐに呂蒙の目を見つめた。

「呂蒙殿、名前を私にください!」

一瞬時が止まる。次の瞬間には呂蒙様は私の父だったのですかと興奮ぎみに叫ぶ名前と、違うと慌てて弁解をする陸遜がいて、これからの陸遜の苦労を考えるだけで呂蒙は不憫で不憫で仕方なかった。名前は陸遜へ専属を移し後は成り行きを見守ろうかとそこまで考えて、確かにこれでは我が子の恋を見守る父親のようだと苦笑を漏らした。


ぼくにそのばかみたいにかわいい笑顔をちょうだい
110503 アンケートより。
「初恋な陸遜」「陸遜の恋を見守る呂蒙」という意見を頂きましたので、合体させてみましたが、如何でしょうか…。ご要望に応えられたかわかりませんが…(特に前者の方はご要望に添えられた気がしませんヒィすいません…!)素敵なネタをありがとうございました!
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -