死のにおいがした。すべてを諦めたような表情はまるで生きながらにして死んでいるようであった。

「わたし、もうすぐ死ぬんですって」

ぞっとするような薄ら笑いを浮かべて掠れた声でそう言ってのけた女に、怖くはねえのかと訊ねれば、それはもう可笑しそうに声を上げて笑った。怖くなんてありませぬ、だってこれで漸くあの人のところへいけるんですもの。一瞬だけ、かつて夏侯惇の隣で見せていた幸せそうな微笑みを見せた。それもすぐに消え、口元を抑え大きく咳き込み屈撓した躰を支えようと手を差し出せば、それはぱしんと弾かれる。
それでは左様ならと何事もなかったかのように姿勢を正し、ふらふらと覚束無い足取りで去っていくその背をただ見送ることしかできなかった。惇兄、やっぱり俺には名前を幸せになんかできやしねえよ。
去り際に振っている手は青白く、まるで千切れた死体の腕を誰かがやけくそで振っているかのようであった。その手を下ろした瞬間にちらりと見えた手の平は真っ赤だった。

冷たくなっていくのはきみのなにかで空はばかみたいに晴れ上がっていた
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