「趙雲様」
「なんだい、名前」

わたしが名を呼べば、趙雲様も名を呼んでくださる。わたしがすきと言えば、趙雲様もすきだと言ってくださる。わたしが見つめれば趙雲様もわたしを見つめてくださる。でも、趙雲様が本当に呼びたいのはわたしの名ではない。好きだと伝えたいものもまた然り。趙雲様はわたしを見ているようでわたしを見ていない。わたしを見ているふりをして別のひとを見ている。いたいくらいによくわかる。だってわたしは彼がすきだから。
好きなひとの幸せはわたしの幸せだとか、好きなひとが本当に好きなひとと結ばれるのがいいだとか、そんなことを言えるほどわたしは優しくなんてないから、彼の幸せなんて二の次で自分の幸せを優先する。
もしも人の心が百であるのならば、彼の百はぜんぶわたしであって欲しい。一でも他の方が趙雲様のお心にいるなど、考えただけで吐き気がする。ああ、わたしはきたない。なんて、きたないのでしょう。わたしがこうして穢くなっていくのはぜんぶ、貴方の所為なのに、ねえ、どうして貴方は綺麗なままなのでしょうか。どうして綺麗なままで、そんな風に私に笑いかけてくるのでしょうか。あなたが笑えばちくりと痛むこの心は、まだ少しだけ、何か別のものがあるのでしょうね。それが愛なのか哀しみなのかは判らないけれど、でもいつか痛みすらなくなってしまったら、そしたら、それでも貴方は私の隣で笑ってくれるのでしょうか。

三秒の幸福を噛み締める
百になれないのなら零にしてください
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