「やあ、元就。息災そうで何よりだよ」
「貴様こそ、相変わらずその馬鹿面にはうんざりさせられるな」
久々に帰ってきてみれば、随分なお出迎えである。私はこいつに何か恨まれるようなことをしただろうか。
「棚にあった大福ならば、私ではなく長曾我部だぞ」
「ふん、やはりな…予想はついておったわ」
日輪に捧げ奉ってやろうぞと元就が呟いたので、あんな粗末なものを日輪に捧げ奉るのは日輪に失礼ではないかと返せば、元就はそれもそうだなと納得した。
「時に元就」
「なんぞ」
「帰りに寄った甘味屋で美味そうな桜餅があってな。買ってきたんだが、これからどうだい?」
「ほう、貴様にしては気が利くではないか」
「私だってやるときはやるのさ。舐めてくれるな」
すぐさま女中を呼んで茶の用意をさせる。お前がやれといってくれるな、女といえど刀だけを振るってきた私にはいかせん女らしいことは出来ないのだ。
茶と桜餅を届けにきた女中に礼を告げ、茶を口に含む。美味い茶にほうと一息つけば、早くも桜餅を一個食べ終えた元就が口を開いた。
「それで?どうであった、様子は」
「ああ、息災だったよ。少し痩せた気もするがね」
母と会ったのは何年ぶりであったか。もう五年ほど経っていたかもしれん。まさか元就が駄目元で頼んだことをのんでくれるとは思わなかったが。
「お前ももういい歳なのだから身を固めろと言われたよ」
「ほう」
「まったく、余計な世話と言うものだ。私はまだ嫁ぐつもりなど毛頭ないよ」
まあ、私をもらうような奇特な者もおらんだろうが。そう冗談めかして告げれば、それでは我は相当奇特な者なのだな、などと言ってきたものだから、口に含んだ茶を吹き出しそうになってしまった。
賞味期限切れの魔法