「小十郎さま、溜め息を吐いたら幸せが逃げまする」
「名前が人参を食えば溜め息なんぞ吐かん」
「それは無理に御座います」

再び溜め息を吐けば、あーあまた幸せが逃げましたと虚空を見つめて呟く。誰の所為でこうなったと思っている、誰の所為で。
名前の人参嫌いは小十郎を大層悩ませていた。他の食べ物は殆ど食べるし好き嫌いはあまりないのだが、人参だけはどうにも無理らしい。自らの作った野菜だ、やはり名前には食べてもらいたい。そう思い食事にこっそり混ぜたりと工夫はしているのだが、名前は目敏く気づき、ちまちまと人参をよけるその徹底ぶりには小十郎も頭を抱えたくなる。

「そんなに嫌いか。俺の作った野菜は美味いと食べてくれるじゃねえか」
「人参だけはどうにもなりませぬ。どなたが作ろうと人参は人参にございます」

つんと顔を背けた名前に強情な奴めと深い溜め息を吐いた。これで溜め息を吐かずにどうしろと云うのか。

「小十郎さま、私の話を聞いておりましたか?溜め息を吐けば幸せが逃げると、あれほど申したではありませんか」
「ふん。…その分お前が幸せにしてくれるんだろう?」

ぽかんと開いた口に人参を突っ込んだ小十郎はしたり顔でにやりと笑った。

恋をかじった味がする
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