短編集/男主 | ナノ


▼ 2




頭が痛い、というか重い。ノロノロとした動作で起き上がりながら、俺はあたりを見回した。そして首をかしげる。蒼い炎を吐く猫が暴れていた。その横には女の子がいる。え、女の子????

この学校って男子校じゃなかったっけ。頭の片隅で考えつつ、なぜか懐かしいと思った。そしてふと思い出す。



ーーーこの光景を、俺は知っている。




棺から出てきた俺に、女の子が「えっ」と言葉を零して、炎を吐く猫―――グリムが制服を寄越せと俺に言い募る。女の子はともかくとして、この光景を俺は知ってる。俺が監督生としてこの学園に身を置くきっかけとなった出来事だ。


―――俺もしかして死んだ???


最後に見た憎たらしいほど綺麗な蒼い炎。それは、俺にとって十分に見慣れた色だった。その事実にため息を零して、じっとグリムを見つめれば、たじろいだように何なんだぞっ…!と威嚇された。


そんな彼を見つめながら思うのはあっちの世界の彼が、気に病んでいなければいいなという気持ち。同じ形をした、けれど違う存在を見て俺は思った。それにしても、何が起こっているんだろう。過去に飛んだのか?この世界なんでもありなんだな…。死んだら二回目…?それとも誰かのユニーク魔法か?

状況を整理したら眠くなってきた。もう一つ欠伸を零してから、横で何かを騒ぐグリムの首根っこ引っ掴んで顎を撫でる。「ふなぁ〜」と気の抜けたような声を出す彼は大人しかった。一年という短い間だったけれどグリムの弱いところは知っている。なんせ、同じ屋根の下で過ごしていたし、この問題児の起こすいろいろな不祥事は俺が片付けなければいけず、手綱を握る方法を模索し、最低限グリムやエーデュースの弱いところ、知られたくない秘密くらいは手に入れた。お前ら止まれ俺のために。

何やら騒がしい学園長が「あれ、足りないのは一人じゃなかったですっけ??」とぼやき、女の子の方がキャアキャア嬉しそうな声を上げていた。俺はずっとグリムの顎を撫で、耳の付け根を擽っていた。よーしよし大人しくしててえらいなぁー。

そこからは前回よりもスムーズに進んだと思う。なんせ問題を起こす猫が俺の腕の中で大人しく寝ていたのだから。鏡には「魔力ないし、お前帰る所ねーから!」と宣言されて(まあ前回もそうだったからなんとなくそうかなって思った)、学園長にはオンボロ寮を押し付けられて、雑用係としてこの学園に身を寄せることになった。が、そこは俺、伊達に学園長の相手をしてきたわけではない




「学園長」
「はい?」
「年頃の男女が同じ屋根の下というのは、ありえないと思います」
「・・・」
「教育者としてソレはどうなんですか学園長」
「・・・」
「俺とグリムだけならともかくとして、彼女は女の子です」
「・・・」
「か弱い女の子ですよ学園長」




前回の世界で学んだことなのだが、この世界は女の子に優しい世界だ。女の子は甘くて素敵で繊細で、という認識であるし、レディーファーストが当たり前の如く存在する世界。無差別犯ですら無差別殺人犯のくせに女の子にはかすり傷一つとしてつけない。別に女尊男卑というわけではなく、ただ紳士な男が多い。

女性が犯罪を犯せば女性だからという減俸はないし、悪いことをすれば糾弾される。女性のいうことすべてが正しいわけではなく、ただ席を譲るとか、段差で手を貸すとかが平然と行われる世界。だからこそ、この世界で女性ということは、武器となり盾となる。

学園長が頭を抱えた。どうやら持ち帰って検討するらしい。逃がすか




「それ、考えない時の決まり文句ですよね。いま、ここで決めてください。というか、答えなんて一つでしょう学園長」
「ぐっ」
「か弱い女の子ですよ彼女は。見た限り中は広そうですけど、男と一緒なんて怖いでしょう。ね?」
「え、あっ、そ、そうね」




なんでどもった。お前当事者じゃねえのか。もっときっぱり否定しろ。

彼女の言葉が背中を押したのか、学園長はとりあえずとオンボロ寮を魔法できれいにした。すごい、性別違うだけでこんなことしてくれるんだこの人。そのあとは男女スペースに分け、共同スペースを作り出す。ちなみにこの男女スペースは俺たち双方が行き来できない魔法をかけたらしい。有能である。実質俺たちが顔を合わせるのは共同スペースと玄関だけ。最高。

ちなみにグリムは当てはまらない。まあ獣だしな




「さすが魔法」
「ありがとうございます学園長!」
「いえ、女の子ですもんね…」
「まあ、それを最初からしなかったんですけどね学園長は」
「う“っ!」
「出し惜しみした意味が分かりませんけど。あ、そうだった。自己紹介まだだったよね。俺の名前は黒木悠。こういう漢字」
「わ、私は緑川優。やさしいって書くの」




響きが一緒なんだなと考え、よろしくとほほ笑んだ。それにしても前回はこの女の子いなかったような…、いなかったよな、うん。そもそも学園に女の子がいなかったわけだし。

俺が過去を思い出してる最中に、二人と一匹は寮の中に入る。俺も慌てて追いかけて元オンボロ寮の中を覗き見た。普通に綺麗である。見てくれだけ綺麗にしてたらどうしてくれようかなって思ったけど。

学園長が何やらいろいろ言って俺たち二人と一匹に雑用係を任命し、去っていった。それをただ静観しながら、頃合いを見計い設置してあったソファーに腰を下ろして、俺は口を開く




「ところで、君誰?」
「それはこっちのセリフ、アンタ誰よ」
「こっちのセリフ?どういうことだ?」
「どういうことも何も主人公は一人でしょう」




主人公は一人という緑川の言葉に首を傾げれば、呆れたというような目を向けて、彼女も椅子へと腰を下ろす




「本来ならこのオンボロ寮の住人は一人と一匹よ。そう言う設定だった」
「設定?」
「何?あんた知らないの?この世界はツイステッドワンダーランドっていうゲームの世界。主人公のユウと相棒のグリムがこの学園の問題を解決していくゲーム」
「乙女ゲームか?」




前回の世界を思い出しながら、そういえば顔がいいメンツが多かったなと考える。属性もモデルだ貴族だ王族だ大商人だとバリエーション豊富だった。乙女ゲームだというなら納得のいく顔の良さと属性。




「どっちかっていうとリズムゲームの要素が強かった気が…。そもそも恋愛描写なんてあんまり…」
「そのゲームの趣旨一体何だよ」




彼女の言い分から察するに前回の俺はこの世界の主人公的立ち位置だったのだろう。なるほど、それは色々な面倒ごとに巻き込まれるはずだ。納得した。そして恋愛要素なんてなかった。ただ問題を解決するだけの生活だったし。まじでどういった趣旨のゲームだったのだろうか。




「とりあえず!いい!?私が監督生になるわ!」
「そんな役職が欲しいならやるわ」




俺は二度と監督生なんてしないからな。あんなの命がいくらあっても足りねぇよ、正直なんで俺は生きているのか不思議だったし、世話をしてもらっている身の上と考えて馬鹿正直に学園長のいうことを聞いた回数は数知れず。投げやりになったことは片手で数えても足りない。留年?退学?みんな揃ってやればいいんじゃないの???


―――翌日―――


学園長が来て雑用を言い渡す、そんな中で展開を知っている俺は彼女たちとは別々に行動した。どうやら彼女はそのゲームのシナリオに沿って行くらしいので、俺は彼女とは違う雑用の内容を学園長に貰って植物園近くの草むしりを行う。それにしてもそんなゲーム俺の世界にあったか?そんなに有名ならTwit〇erとかで流れてくるはずなんだが…。でもそのゲーム以外能力アニメとか漫画とかは一緒だった。鬼〇の刃が一世を風靡したという話をして昨日は寝たし。

そもそもこの世界がゲームと知っていて、しかもプレイしていてどんだけ大変だったかわかってるはずなのに自分から原作に沿って動くわ!という彼女の気が知れない。ドエムかよ。


籠の中いっぱいになる雑草に一度立ち上がって身体を伸ばせばボキボキと音が鳴る。

あ、爺くせぇ。

よいしょっとかけ声をかけてから持ち上げ、荷台に抜いた雑草を流す。荷台に雑草が入らなくなったらこの場所からはそう遠くない焼却場まで運ぶ予定だ。




「おい…!」
「!!!!!」




気を抜いていたせいで思わず身体が跳ね上がり、その場から距離を取って声をかけた男を見る。驚いたように見開かれた翡翠の瞳が俺を映し、中途半端に止まった手。

ーーーな、なんでこの人俺に声をかけたんだ。

前回散々迷惑をかけて掛けられた間柄であるキングスカラー先輩を見つめながら考えた。だって俺ら初対面だよ???俺もうあなたに関わる気がないよ??どんだけめんどくさかったことか。一々一々何もないのに呼びつけてベットに引きずり込まれたことは数知れず。寝ぼけたまま襲われかけたことは両手の指じゃ足りず。飢えてんなら花街に行けと投げ飛ばした回数は二桁。

それ以外なら基本的にまともな人だった。




「お前、あの時死んだんじゃなかったのか…?」
「はあ???」
「あのとき炎に包まれて、お前…」
「………」




お約束か???

思わず真顔になってしまった。助っ人キャラ的役割がキングスカラー先輩って終わってんな。俺は思った。つまりこの先輩は前回の記憶がある先輩である。糞ゲーだなマジでよ。そいう役割って面倒見のいいトレイ先輩とか味方に付ければ心強さこの上ないアズール先輩(中身は幼女)とか、大人の包容力がある先生方のどれかとかじゃないの???

第二王子でラギー先輩いないと自分から動こうとしないキングスカラー先輩がそういう役割持っていくか?普通。いや、でもこの人、魔法もポテンシャルも高いんだよな。俺の好みの問題かもしれない。とりあえず、と警戒を緩めて俺はキングスカラー先輩に声をかけた




「とりあえず、俺の知ってることは話すんで今にでも飛び掛かりそうな構えをやめていただいてもいいですかキングスカラー先輩」




怖いんで



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