短編集/男主 | ナノ


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 だからこそ、元の世界に帰ってきたとき、まるで足元から瓦礫が崩れるような錯覚を覚えた。へたり込む様にその場に座る妹を背中にかばって、蒼い炎を吐く獣を引っ掴み、俺は「おや?」と首をかしげる学園長を睨みつける。そのまま不躾に俺を眺めて小さく「貴方、死んだはずでは…??」と聞こえてしまう。なんだと…?俺は死んでいたのか。昔のくせで喉が「グルルルッ」と鳴った。横では妹が久しぶりに聞いたといわんばかりに目を見開いている。




「まあいいでしょう。何も聞きません。私、優しいので」
「どの口がほざくか、クロウリーっ」
「威嚇しないでくださいよ。まったく。入学式はもう始まっているんです」




 ささっ、行きますよ。無情にも妹に触れそうな手を跳ねのけて、炎を吐く猫を押し付けた。俺の腕の中で大人しくしていたそいつは、よほど学園長の腕の中がお気に召さなかったのか暴れ始めた




「お、お兄ちゃん…っ」
「安心しろ。俺が守ってやる。」




 俺の袖をつかみ、不安そうに見上げた妹の肩を抱き、懐かしい学園を歩く。もしも俺に、耳や尻尾があったなら、せわしく動き、不機嫌に揺れていたことだろう。歩いている間に、小さな声でこの世界の知識を妹に話す。

…この世界は、俺が消えて、何年後の世界なのだろう

 どうして知っているの?と、首を傾げた妹に曖昧に微笑んでから、ゾワリとした寒気に思わず進めていた脚を止める。目の前には広間の扉。その中から何か、いやな気配が漂い始め、俺は眉をひそめた。


―――嫌な、空気だ。


 俺には昔のような、良く利く鼻も、よく聞こえる耳も、野生の勘もない。身体能力だって、ずいぶん落ちた。だって俺は人間だ。だけど




「この中に、入っちゃダメな気がする。―――学園長。」
「んーそうですねぇ。仕方ありません。特例ですよ」




 彼は何を言うでもなく、スッと右手を上げる。次の瞬間。俺はふんわりと地面に浮き上がり、瞬きを一つするわずかな時間で、見覚えのある部屋に落とされた。学園長室である。何やら高級そうな飾りがキラキラと輝いているなと思えば、妹のいるであろう方向から青い炎と、聞き覚えのある咆哮が聞こえた。端に見えたこの世界のカレンダーはあの日から大体三年…つまり、アイツは…




「……嘘だろ、第二王子、あんた、留年したのか…」




 しかも三年も留年したのか。声が震えている気がするけれど、俺は彼に会う恐怖よりも、そちらの方に意識が行った。そして思うのだ、もしも俺が獣人のクロキであったなら、奴隷落ちどころか首が飛んでいたかもしれないなと。



―――ああ、あの王子から逃げれてよかった



胸をなでおろし、そしてほほ笑んだ。



―――この世界で、俺は妹を守っていこう。



そして帰り方を探って、早く帰ろう、あの幸せな空間へ



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