短編集/男主 | ナノ


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「夏休み?」




そんなのあんの?というのが正直な感想だった。目の前で優雅にティーカップを持つリドルが当たり前だろうと頷く。ちなみに俺とリドルは向かい合うようにして座り、その周りには他寮生が楽し気に食事をとっている。ハーツラビュル寮生は皆結構遠い。多分、何気ない行動が【首をはねよ(オフ・ウィズ・ユアヘッド)】につながる可能性を恐れてのことだと思うけど、正直俺も覚えてないんだよなぁ。一々細かなこととか覚えるの苦手だし。なんでハーツラビュルに入ったのかもわからない。見てくれは完全にポムフィオーレ寄りだ。そういわれた。そんな会話を繰り広げた俺のことをリドルは激しく怒ったけれど…




「それで?夏休みの話題をどうして出したの?」
「いや、ルディはどう過ごすのかと思ってね。」
「おれぇ?たぶん行商に戻るんじゃないかな。いろんな国を渡り歩いて、いろんな場所を見聞きして、そしてその国の文化や通貨、価値や評価を身に着ける」
「へぇ、じゃあ、僕の国、薔薇の王国を見たことはあるかな?」
「昔あるみたいだけど、俺はあいにく覚えてないね。」




少しだけ頭をひねってみたが特産品、売れる宝石、お国柄は知識として出てこれど、町の風景などは全く脳裏を横切らないため、記憶にはない。俺が本当に小さい頃は足を踏み入れたことがあるらしいのは父に聞いている。




「なら、ボクの家に遊びに来ないか?お母様も、君なら許してくれると思う」
「?、家族を家に招待するだけに親がお前の友人をふるいにでもかけるのか?」
「・・・いらないのかい?」
「俺の家はいらないね。そもそも呼んじゃいけない理由があるときは前もって教えてくれるよ。荷台の中が汚いとか、ちょっと高価なもの扱ってるときとか、具合が悪いとか」
「…ッ、そ、そうなんだね、」
「まあ、家によって違いはするけどな。理由なんて」




リドルの家は珍しい方だな、と何気なしに呟けばリドルの肩が震えて、どこか顔を青ざめさせる。通りかかった三年のトレイ先輩が「どうした?」と声をかけた




「いや、リドルの家、厳しいねって話をしてただけですよ」
「お前、それ鬼門だぞ…」
「え、そうなんですか?リドルごめん」
「いや、大丈夫、ボクも勉強になった」




そういうリドルの顔色は悪い。俺は思わず顔を顰めてリドルの前に移動する

不思議そうにこちらを見つめたトレイ先輩とリドルに何も言わずに、その顔色の悪い頬を両手で包み込んだ




「っ、なに、して…」
「リドル」




名前を呼んで、ただじぃっとその小綺麗な顔を覗きこむ。そうすればじわじわと頬を赤く染め始めた。ついでににっこりと微笑みまでつけて、口を開く




「そういうことだよ」
「は?」
「は?」




意味が分からない。そんな言葉が聞こえてきそうだけれど、俺はニコニコと笑う。リドルの様子とトレイ先輩の言葉をつなぎ合わせれば、リドルが幼少期、どういう風に過ごしてきたのかは自ずとわかる。俺の行商にもそういう奴は数人いた。というか、親本人が良かれと思ってやっていることが、子供本人にとってはただの重圧で、ひどい言葉を使うなら有難迷惑なだけの時があるモノだ。親にとってはもしも子供の出来が悪くても、「私は一生懸命育てました」という変なプライドがあるため、自分は悪くないと自己暗示をかけることができるし、出来が良ければ「やっぱり私の教育は正しかったのね!」と自己満足になる。どっちに転んでもメリットしかないのだ。…本人にとっては。中には感情までも操られて、本当にただのお人形さんになってしまう子供も少なくはない。それに比べたらリドルはまだましだ。まあ、親のルールに縛られているリドルにマシをという言葉を使っていいのかは酷くあやふやだけれど。

それに、もしかしたらリドルがルールに厳しいのも、親がかかわっているのかもしれない




「な、にがしたかったんだ君は…。」
「いや、別に?」




いたくない程度に両手を払われて、じっとりとした目を俺に向けたリドルに微笑んで見せる。今日何度目かの微笑みだ




「夏休みリドルの家に連れてってよ」

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