短編集/男主 | ナノ


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「っと、いうわけで、ちょっとそこのお兄さん方!お話良いですか!?」
「おや?」
「ん〜?」




数週間後、昼食もそこそこに食堂から飛び出した俺は目についた双子の青年たちにとびかかった。手に麻袋を掲げ、満面の笑みを浮かべながら話しかけてきた俺にその双子は首をかしげて歩みを止める。腕に巻き付く紋章はオクタヴィネル寮のものであったがそんなの関係ない。見てくれ滅茶苦茶マフィアだなふぇ〜と思ったけど商売となればお話は別である。何より同じ一年生。遠慮する必要がどこにあるというのだろうか




「俺、行商の者なんですけど、取引しませんか!?」
「それ大丈夫?誤解うまない?」
「最近父からいい感じのブツが届いたんですよ!」
「あのすみません。もう少し言い方を変えていただけませんか…?周りの目が…」
「お二人とも好きですよね!こういう黒いやつ!!」
「「ちょっとこっち」」




両腕を掴まれ、空き教室へと投げ入れられた。ドアを思いっきり閉めて、鍵までつけた双子の顔はどこか疲れ切っている。一人が片手で顔を覆い、一人が眉間を抑え、そろって重い溜息を吐いた。




「あー・・・君、ハーツラビュル寮の子だよねぇ?」
「確か、一年で寮長になられた方のお知り合いだったはずですけど…」
「そんなことより紹介したい商品の話していいですか?」
「「………」」




バカな子を見る眼差しである今すぐやめていただきたい。俺はいついかなる時も商売に対して全力を注いでいるだけである。俺の話に興味はない




「ちなみに、俺はお二方がこの商品の話を聞くまでお二人に付きまといますよ」
「え…迷惑」
「ええ、非常に迷惑ですね。仕方ありません」




本当に迷惑だといわんばかりに顔を歪めた二人には悪いが俺にも引けないものがある。そして思い知るがいい、商人の怖さを



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「と、いう感じでこちらの商品は持ち運び式可能な四次元ポケットなんですよ。今なら水流の魔法石もプレゼントしちゃいます」
「えっ…!すっごいね!?それがあれば一々自室に戻らなくてもいいじゃん!」
「何なら妨害魔法の加工もしてありますから我慢できなくなったらキメちゃえばいいんですよ!」
「なるほど、……あなた言い方どうにかなりませんか?」
「リーチ君たちお水大好きですもんねぇ!!!」
「言い方に悪意感じるよねぇ」




だんだん楽しくなってきたな。自分でも気持ち悪いほどに息が上がってアドレナリンキメたやべぇ奴みたいになってる。




「種族的にも水がない環境はつらいかなと思って商品紹介させていただいてるんですけど、どうでしょう?」
「あなた、結構馬鹿に見えてしっかり人の本質見抜くんですから立ち悪いですよ」
「父にも言われましたソレ。ちなみにサバナクローの方にマタタビ進めたら殺されかけた話しますか?」
「あっはぁ!バカでしょ君ぃ!」
「そのあと裏からコンタクトあってマタタビの売り上げは絶好調です」
「悪運強すぎませんか貴方…。」




いたく商品を気に入ってもらえたようで何よりだ。二人から現金を受け取って収納用の魔道具と水流の魔石を渡せば、他にはないのかと聞かれる。一番にお勧めする商品は出し終えたが、俺の管理下にはまだまだ多くの品が眠っているのは確か。これはいい商売になると目を細め、口を開けた瞬間、鋭い声音と首に嵌る何かに思わず固まった




「いい加減にしろと何度言ったらわかるんだ!【首をはねろ/オフ・ウィズ・ユアヘッド】!!!」
「っち、見つかったか…!!」
「お前は何度言ったら学内での商売をやめるんだ…、規則違反じゃないにしろ目に余る、どれだけ他の寮に絡みに行く気だい、本当に…、毎度毎度止める身にもなってほしいね」
「学園長の許可も理事長の許可も得てるんだからいいだろう!」
「おや、口答えする悪い口はこれかな?」
「〜〜〜っ!」




両頬を片手で掴まれてギリギリと力を加えられる。痛い痛いとリドルの腕を叩いても彼は離そうともせずに、双子に向き直った




「我が家の寮生が悪いね。今後このようなことがない様に…、は、無理かもしれないが、なるべく被害を減らすよ」
「いえいえ、こちらもよいものが買えましたから、ところで、部屋は閉まっていたと思うのですが?」
「ああ、それなら教員からカギを借りたよ。全く、本当に世話が焼ける寮生だ…!」
「ち、ちからを、ちからをさらにくわえるの、やめてもらっていいですかね…」




思い出しただけで忌々しいといわんばかりに力を加えるの本当にやめてもらっていいですかね、痛いです。寮長痛いです!!パワハラですっ!!




「ありゃぁ〜。そんなに力いれたらフクロウちゃん泣いちゃうよぉ?」
「は?フクロウ?」
「そうそう、昔から商売の鳥はフクロウでしょう?だからフクロウちゃん。まあ、ともかく、俺は気に入ったかなぁジェイドは?」
「まあ、悪くはないと思います」
「だよねぇ〜!」




ニコニコとギザギザの歯を見せて笑う一人に、リドルが顔を顰めてにらみつける。




「金魚ちゃん、あんまり囲いすぎると、窮屈で逃げだしちゃうかもよ?」
「お前たちに関係ないことだ」
「俺、その子嫌いじゃないも〜ん。水辺の底に連れてって、大事にするくらいには好きだよ?」
「そうか、残念だね。この子はボクの寮生だ」




海の底に連れていかれてたまるかと吐き捨てるリドルは俺の腕を引っ張るとそのまま教室を出ていく。その横顔に焦りと何か別の複雑なものを感じて、俺は少しだけ反省した
途中ですれ違った先輩方が心配そうにこちらを見ていたが、それに軽く手を振って、大人しくされるがままにリドルの部屋へと足を踏み入れる




「…はぁ…。」
「リドル怒ってる?」
「呆れているだけだよ。君に会ってからボクの予定は狂うばかりだ。」




嵌められた首輪が音を立てて外れると、そのまま粒子になって消えてゆく。




「俺は謝らないからね」
「そこは嘘でも謝罪の言葉を述べるべきだろうに、まったく…。まあ、でも、そこがルディの美点、でもないな、お前は」
「そこは嘘でも美点と言うべきだよリドル」




嘘はつけないものでね、僕は、といいながらリドルは少々行儀悪く上質なソファーへと腰を下ろした。リドルと出会って数か月とはいえ、最初のころにあった気品が徐々に消えている気はする。俺のせい?俺のせいかな?

ハートの形をしたくせ毛がせわしく揺れて、灰色の瞳は俺を移す。ひょいひょいっと細く白い手がこちらに来るようにと手招きしているのを見つけて近づけば、首元のネクタイを容赦なくつかまれ引き寄せられた。慌ててソファに腕を付き、倒れこまないように力を籠めれば、リドルに覆うような形になってしまい、身体は固まった。深くてきれいで、どこか透明感のある瞳とかち合って、とろりとほほ笑まれる




「あまり、おいたはしないように」
「………」
「返事は、はい、寮長以外聞きたくないよ、ボクは」
「はい、寮長」
「よろしい。」




それでも俺のネクタイを掴む力は緩まない。何とも言えない表情でじっと俺を見つめるリドルに、そろそろ腕が悲鳴を上げる。すみませんそろそろきついです寮長。




「…お前、改めてみると本当に顔がいいね」
「俺の顔が不細工だと思ってたんですか??世界への冒涜では??」




我これでも母と父のいいところ余すことなく受け継いでますけれどなにか??思わずそういえば、うるさいよと叱咤が飛ぶ。マジで理不尽さすが寮長。ふむ、と何か言いたげな彼に俺が首を傾げたとき、そのまま腹に一発、容赦のない見事なこぶしに思わず腕の力を緩め、倒れ込んだ。倒れた先には寮長の胸元で、自分よりも小さな少年に抱きとめられる。あ、すごい、めっちゃ良い匂い。タルトのような甘い香りとバラの香りが程よく混ざったような……




「抗議」
「聞かないよ」




暫く抱き枕にでもなってるといいさ。ぎゅぅっと、まるで大事なものをしまい込む様に抱き締めて、リドルはくすくすと笑って見せた。その姿にまあいいかと俺は思いながら、目を閉じる













翌日、俺とリドルはできている(意訳)の噂に烈火のごとく怒り狂ったリドルがいたことは想像に難しくないと思う


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