短編集/男主 | ナノ


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さて、前置きは長くなったが俺は転生者である、前世では行商とは全くと言っていいほど縁のないジュエリー職人。加工専門の人間だった、売りに出すのは弟の仕事で、俺はひたすら美しく輝く宝石に手をかけて仕上げることに全力を注ぎ、休日はアニメをたしなむ一般人だったはずだ。そんなこんなで俺の魔法は宝石を軸にした宝石魔法と呼ばれる物で、それ以外からっきしというか、まあできないことはないが秀でているわけでもないレベルらしい。つまり俺が評価された点はマジでこの一点。そんなの今の人生は酷く充実してると思う。宝石を一日中見つめても誰も咎めないし、何なら商売は楽しい。

きらりと明かりに透かされて光る薄いアメジストを見つめながら俺は目を閉じた。

御者が打つ鞭の音と車輪が整備されぬ道を進む感覚、両親はすでに眠ってしまっているだろうか。俺がお得意先を見つけると息巻いて学園へと案内する馬車に乗り込んだはいいものの、不安でしかない。

何気なしに馬車から外を覗けば夜空に散らばる星が美しく、ほぅっと吐息を零す。その時に目に入った不自然に止まるソレに馬車を寄せてもらい、地に足をつけた。父が寒くないようにと纏わせたローブがふんわりと浮き上がり、ゆっくりと背中を覆う。

駆け足気味に目に留まったそれ、半壊とは言わずとも車輪の外れた馬車に近づいて頭を抱えるように立っていた己よりも少しだけ背の低い少年と、その馬車の御者であろう男に声をかけた




「突然すまない。馬車に異常が見られるようだけれど、大丈夫だろうか?」
「!!」
「あ、ああ、これはお見苦しいものを…、申し訳ありません、通行の邪魔にならぬところにとめたつもりですが、お邪魔でしたでしょうか?」




俺の声に驚くように顔を上げる少年と、まだ年若い御者に微笑んで見せながら俺は首を振った。




「いいや、困っているようだったから声をかけただけさ。見たところ俺と同じく【ナイトイレブンカレッジ】の学生のようだし、よければその少年だけでも俺の馬車にと思ってな。」
「それはそれは、よろしいので?」
「もちろん。困ったときはお互い様。恩義でも感じてくれれば俺は万々歳だしね。…それで、君はどうしたい?」




安心させるようにほほ笑んで、俺が問いかけると少年は少しだけ目線をさまよわせた後に、真っ直ぐと意志の籠る瞳をぶつけてくる。酷くきれいなグレーの瞳。飲み込まれてしまいそうなほどに深く、意志の強い瞳だ。見る角度によってはまた別の色合いをかもしだす。んー。宝石なら高く売れるなぁ




「そう、だね、申し訳ないが同行させてもらえないだろうか」
「なんでお前ちょっと不服そうなんだ」




マジでなんで「ふぅーやれやれ」見たな雰囲気出されてるんだろう。御者が少年の荷物を俺の乗る馬車に積み込んでいるのを横目に見て、少しだけ一緒に行動するであろう少年に手を差し出した




「まあ、こんな出会いだが、俺の名前はルディ・ジューン少しの間、旅の友としてよろしく頼む」
「……友として…?、……ボクはリドル。リドル・ローズハートだ」




白く細い、女にしてはしっかりとした骨格の手が添えられて握られる。一見すれば少女のような儚さの外見の割に恐ろしく芯の強い少年なのだろう。長話もなんだと思い馬車に乗り込めば向かい合うようにして腰を下ろした




「改めて礼を言うよ。助かった」
「困ったときはお互いさまってね。そういえばローズハート殿は馬車で学園へ?扉は使わなかったのかい?」
「リドルで結構だ。…馬車で学園へというか、ボクの家は少々特殊でね扉を使っての移動が困難だから特別措置だよ。君は?」
「俺はそもそも旅する行商だから、座標、というよりは俺たち行商の場所が把握できないらしくてね、豪華にもお出迎えさ。」




本来ならば扉というものを黒い馬車が運んでくるのだが、俺は残念ながら数多の魔道具を所持しているおかげで確実に学園へとたどり着ける方を選ばれたらしい。まだ出会ったこともない学園長からの苦情の手紙が届いたときは思わず笑ったものだ。




「まあ、俺以外に馬車で学園へと行く新入生がいたというだけでも少しだけだがほっとする」
「それはボクも同じだよ。やはり人と違うというのは不安だ。…それはそうと。行商、と言ったね。どういったもの君は取り扱うんだい?
「頼まれればなんでも。…と言いたいんだが、俺の担当は魔法石と魔道具。それのお得意様を探してナイトイレブンカレッジへ。チャンスをモノにしてこその商人だろ?」
「違いない。まだ学び舎に着くまでに時間があるね。良ければ見せてもらうことはできるかな?ボクも魔道具には興味があるよ」




興味深いと言うように身を乗り出したリドルに、俺は勿論と答えてカバンからいくつかの魔道具を取り出した。防魔のネックレス。耐炎の指輪。忘却のイヤリングと品ぞろえは十分で、もちろん見目も麗しい道具たちだ。中には俺が一からこさえたものもある。




「素晴らしい。よくできているものだ。これなら顧客もすぐに付くだろうね。」
「学園だけのかかわりじゃ困るけどな。本当に欲しいのは卒業した後も取引できる客だよ。正直ソレができれば勉学はどうでもいいね」
「それはダメだろう。」
「手厳しい」




何処か食い気味に否定されてしまい、肩をすくめれば、ため息をついてリドルが椅子に背を預ける。腕を組み、脚を交差する姿はひどく絵になって、商売にしか興味のない自分から見ても素直にかっこよいと思う。それ以上に顔がかわいらしいが…。

何かを考え、そしてスッと灰色の瞳と目があえば、形の良い唇は弧を描き楽し気に口を開いた




「君には学業をきちんと管理する人間が必要だね。短い期間ではあるけれど君のことはよぉくわかった。将来へ向ける姿勢は評価しよう。けれど、学業をおろそかにするというのは話が別だ。」
「お、おう」
「光栄に思っていい。このボクが君を管理しよう。そう、君にはさっきできたばかりの恩があるからね。学園生活において君が万が一にも、億が一にも落第などしないように僕が見ていてあげるよ。」
「有難迷惑…」
「よく回る口だね本当に。さて、見えてきたよ」




掛けられていた薄いベールを横に流してリドルが窓の外に目を向ける。そこにはまるでヴァンパイア城かと問いかけたくなるような建物が月を背負ってその姿を現した。馬の鳴き声と御者の声と共に窓が開き仮面をつけた男がまるで舞台演技のような口調で学園の説明を行い、会場へと連れていかれる。今だ俺たち以外の新入生は来ていないようで、在学生の姿しか見えなかった。

ここから俺のお得意先探しが始まるのかと思えば緊張するが、あれもこれも未来投資のため。俺の商売のためだと奮い立たせ、そっと息を零したのだった、


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