短編集/男主 | ナノ


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貴族の家に生まれた。母は公爵家の出で、父は腕利きの商人。父の手腕に惚れた母は無理やり同行する形で家出。父はそんな母にメロメロで、息子である俺から見てもおしどり夫婦だと思う。美しい母に凛々しく頭の良い父。そんな二人を表立って批判できなかった祖父母達は父にある程度の資金を持たせて国から追い出した。それでも母が一人娘だったためか、張りぼてみたいに薄っぺらな貴族の位もおまけに押し付けて。

まあ、そんなことに屈しなかった父と母は逞しくもまだ幼い俺の手を引いて旅に出ると世界各国を回っては行商を続けていく。そのおかげで俺も年の割には顔が広く、父ほどではないにしても商売がうまくなったと思う。今ではそう多くない荷台の一つを任せてもらえる程度にはなった。担当するのはもっぱら宝石やアクセサリー。その中でも希少も稀少である魔力のこもった魔道具も俺の商品の中には存在した。もちろんそんなものを扱っている旅の商人なんて盗賊にとって格好の餌だろうけれど、母は魔法に優れており、俺にもその力が受け継がれていたおかげか、特に危険もなく、父に商売、母に魔法と教養を教わる充実した幼少期を過ごして、そろそろ独り立ちでもしてみるかと父に言われ始めたころ、俺に一通の手紙が届く。この世界において名門と謳われる魔法士育成学校【ナイトイレブンカレッジ】からの招待状。優秀な人間しか入ることの許されない狭き門と、卒業すればステータスとなり、将来を約束された切符を手に入れることができる場所。

母は口元に手を当てて「まあまあまあまあ!」と喜び、父は少し考えるように目を伏せて、俺と言えば頭の中で考える。


―――もしも、この学園に通うことによって俺自身にプラスとなることは何か。俺の今後の商売の伝手が伸びるのではないのか、優秀と謳われる人間が得意先となればーーー。


考えるまでもない。俺はこの美味しいチャンスを逃すわけにはいかないのだ。それに、優秀とはいえ、母はあくまでも令嬢、令嬢である母から教わった魔法の知識と専門学校で身に着ける経験。どちらが上であるかなど子供でも分かる。




「父様」
「…ああ」
「これは俺にとっても我が行商にとってもよい機会ではないでしょうか」




冷静な色を放つ翠の瞳が俺を見つめ、スッと細まった。それに対抗するように俺は母と瓜二つである紫水晶の瞳でまっすぐと見つめ返す

父の眉間にしわが寄ったのを確認し、俺は何か言われる前にと完ぺきな挙手をして叫ぶように言った




「俺が得意先を増やしてきますよ父様!!!」
「誰が宝石の管理をするんだバカ息子!!」




そもそもちゃらんぽらんなお前に商談が務まるわけないだろう馬鹿者めが!と父から飛んでくる罵倒に耳をふさぐようなジェスチャーをし俺は言い返す




「俺にだって商談の一つや二つできますもん!!独り立ちしていいって言ったのは父様ではないですか!!」
「商人が商談の一つや二つできて当たり前だ!!お前に独り立ちしていいといったのはあくまで得意先が固定している宝石の行商だからであって一からの商談などできるわけないだろう!」
「俺は宝石の商談においては父様より秀でています!」
「その点においては反論のしようもないがお前は次期にこの行商を引き継ぐのだからそれ以外がからっきしでは困る!わかるか?だから学園では商談をせずに、商売のことを考えずに学んできなさい」
「俺がお得先を見つけます!!」
「いらんことをするなと言ってるんだバカ息子ぉおおおおおおお!!」




思いっきり父のこぶしを受け、頭部から響いてはいけない音がするとその場に膝をつき、長い長い説教を受けることになった。









「……るーちゃんに行ってほしくないならそういえばいいのに、どっちも意地になっちゃって、バカねぇ」




優雅に紅茶を啜る母がそう言ったのを、怒られる俺と叱る父の耳には届かず、風に消えてゆく。


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