短編集/男主 | ナノ


▼ 3

そして知る。なぜあの兄弟子が帰ってこなかったのかを。





鱗滝さんに恨みを持つ鬼が、50年も生きながらえていたことに、息を飲む。ここに来る途中、何体もの鬼を斬った。刃こぼれは酷いし、俺の体力だってがたがただ。地面から生えてくる腕も、伸びてくる腕も切り捨てて、どうすればいいか考える。だって、どうやってもこの鬼に勝てるビジョンが思い浮かばない。この刀じゃないなら行ける。けれど、手元にあるのはこの刀だけ。高く跳躍して、鬼の手を斬り、首を狙うように見せかけた。わずかに鬼の手が力む。上から伸びてきた腕を利用して後ろへと跳躍した。土に足がめり込む。やはり、刀がダメだ。あと一回で折れてしまう。考えろ。手遅れになる前に、考えろ、俺が死なない方法を。呼吸をしろ、前を見ろ、落ち着け。大丈夫、どこに隙がある。どうすればこの場を切り抜けられる。こいつを殺すのは、あとでも、できる。

面を被ってどこに視線をどこにやってるのかわからぬようにした。

そして前を見据え、嫌な笑みを浮かべる鬼を見つめる。地面がわずかに揺れてる。手が来る、刀を構え、地を蹴った。一度だけ、チャンスは一度だけだ。真正面に伸びる奴の手を蹴り上げて、後ろから伸びる腕を踏み台にする。足に力を入れ、奴の目を切り伏せた。首は守っていても顔は無防備、それに加えて刀が折れる。痛みにもだえる鬼の目に、指の合間を縫って折れた剣を突き刺した。そのまま手を放して地面に降り、俺は逃げる。


朝日が昇るまであと少しだった。


そう言えば、置いてきた義勇は大丈夫だろうか。

ちなみに逃げたことが情けないなど俺は思わないからな。生きてるからこその物種だ。勿論死んだほうがいい時だってある。けれど俺はあそこで死ぬわけにはいかないのだ。後ろから鬼の咆哮が聞こえる。んー、怒ってるなぁ。だけど




「俺のーーー、勝ち、だな」




なんせ今日は、最終日だ。いっぱい食わせてやれた。少しだけ、兄弟子たちが良くやったと言ってくれてるように、昇る朝日が綺麗だ。伝う涙は狐の面が隠してくれている。

俺はそこか晴れ晴れした気持ちで義勇を置いてきた方向へと足を向けた、そこでなぜか涙を流す義勇がいる。え、男らしくない…。顔がなまじ整ってるせいでどこか女にも見える。嘘だろ、アレ俺の兄弟弟子なの…?

横にいるまさにモブみたいな顔の少年が慰めてくれてる。それでも嫌々と首を振る姿に頭が痛くなった。どうせ俺が一人で行ったことに傷ついて泣いてるのだろう。なんだかんだ言ってこの六日間一緒に居たわけだし。なんで離れたのか?アイツが怪我したから周りを少し警戒して見回ってただけだ。俺の刀はボロボロだったし、それくらいしかすることなかった。その中であの鬼にあってしまったわけで…、




「ぎゆー」
「さ、さびとっ。無事で!」
「勝手に殺すな。あと男なら泣くな」




怪我してるくせに勢いよく抱き着いてきた義勇を受け止めて、慰めていた少年に目を向ける。




「俺の兄弟弟子が世話になった。俺は錆兎、お前は?」
「俺は村田。何回か助けてもらってたんだが、覚えてないか?」
「生憎、いろんなところに行っては斬り、いっては斬りだったから…一人一人は覚えてないんだ」
「言い方がかっこいいな。ほとんどの鬼、お前らが斬ったのかもな」




人のいい笑みで笑う村田に、そうだなぁっと返せば、俺の服を握り締める義勇が何か言いたげにこちらを見つめていた。俺は鱗滝さんじゃないからお前の言いたいことを匂いで感じることはできないぞ義勇。どことなく目がメジェド様みを感じる。なんだこの、深淵を除くときは深淵もまたこちらを覗いてる感じ。俺は覗く気ないんだけどな。歩きながら話して
いたため、出口が近い。

さてとー、帰るか…

今だむすっとした。義勇に腕を絡められ足を縺れさせつつ鱗滝さんの元に帰れば、力強い抱負を受けた。その力強さに俺は、安心してしまい、気を失うように眠りにつく。次、目が覚めたら鱗滝さんに、ほめてもらおう……





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