短編集/男主 | ナノ


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祝レベル60

鬼のような強化合宿だった。休む間もなくひたすら団子食べて幕の内食べてすでに三週間。出陣してると人と話さなくてとても楽だ。いまだ一言も仲間とおしゃべりできてない。気軽に肩を叩かれるとビビるからやめてほしい今日この頃。

ふああっと眠たげに横で偵察を行う加州は、俺の方に目を向けるととてもきれいに微笑み、楽し気に口を開く




「そろそろあんたも主と話さなきゃね。どうせまだ誤解したまんまだろうし。それにさ。俺、山姥切さんのこと結構好きだし。」
「……」
「というかほんと喋らないよねー。瘴気がつらい?」




喉がやられてんのかなぁー。呑気に考え込むよう加州が言えば、横で団子を頬張っていた次郎太刀が身を乗り出して会話に参加する




「んー、一応瘴気には強いはずなんだけどねぇ。逸話的に。考えられるのはこの本丸とひどく相性が悪かったとかじゃないかい?」
「でもここまで相性が悪いとなると、そもそも依り代があっても顕現できないんじゃ…」
「一応あたしは奉納された刀ではあるけれど、こういうのはあたしよりも蛍丸のほうが分かるね。あとアニキ」
「太郎太刀と蛍丸は今日主の護衛だしね。…山姥切さんは本丸に入れないし」




困ったなぁとため息をつく彼らに申し訳なくなりつつ、自分の分の団子を口に入れた。


…そう、俺はどういうことか本丸に入れない。いや、入れないならまだマシだった、正確には加州が信用できるといった刀たち意外と顔を合わせれば即座に折られそうになる。まるで親の仇だと言わんばかりの目で睨むのだ。そして三週間過ごしていて分かったことといえば、この本丸、前任の刀と後任、俺の主の刀が存在していて、前任は何をやらかしたのか自分の刀に切られ亡くなっていた。もう数十年前の話である。そのあとは何人もの審神者がこの本丸に派遣され、そして逃げ出してきた。主は派遣された可哀想な審神者の一人らしく、どの後任よりも長くこの本丸に努めているようだ。

気になることとして前任の刀は刀剣の本分を果たさないくせにでかい顔で本丸に居座っている。謎でしかない。そんな非効率的なことをする刀剣なんぞただのなまくら。刀解でもしてやればいいというのに、俺の主は詰めが甘い。審神者判定とかあるなら不可ではないにしろ優でもない。中間の可。位か。

そういえば昔、弟がテストで良い点を取るたびに俺に評価をねだったのを思い出す。まあ、俺的には弟に不信感たっぷりな時代だったから思いっきり顔を顰め




『人に見せるためだけに勉強をしているというならまだまだじゃないのか。そんなもの、不可だよ』
『努力しましたと言って評価されるなら人間誰でも評価されるだろう。不可』
『偽物君、こういう言葉を知ってるかな?一生懸命やれば知恵が出て、いい加減にやれば愚痴が出る。そんな不満げな顔をしている君はどっちだい?』




我ながらひどく何様だと問いたくなるが、今の俺は神様であるので関係ない。
いや、本当にひどいな。イキってるというまさに手本のような子供。コレは酷い…。

そんな俺に顔を輝かせた弟も本当にやばい。これ以上ないほど嬉しそうに弟は笑うと




『ああ、兄さんに評価してもらえて、うれしい』




ずっと夢だったんだ、と、彼は確かにそう言った。




それに対して自分は何と答えたんだか。ひどく拍子抜けしたのは覚えている。




「山姥切?」
「!!」
「あ、ごめん。脅かすつもりは全くなかったんだけど…」




考え事をしてる最中に声を掛けられて、俺は肩を震わせた。後ろを振り返ればどこかバツが悪そうに顔を顰める




「清光が…」
「ちょっと安定なんでも俺が元凶みたいに言わないでよ。」




いや、用があったのは本当なんだけど。と、小さく後ろ手に後頭部をかき、そっと歪みのできた空間を指さした。
黒のような灰色のようなどこか不安をあおるその歪みはこの時代から己らの拠点である本丸へ帰るための道だ。けれど、何故だろう、その穴が




「?」




小さくないかい?と、目で訴えれば加州は神妙に頷く




「うん、小さいんだよ。俺や安定なら通れるかもしれないけど。次郎は絶対に通れないでしょ?」




山姥切なら何か知ってるかなって思って。と、過去に別の俺が政府に所属していたという情報を知っている彼は、もしかしたら俺が何か知っているかもしれないと声を掛けたら叱った。「…ん」と俺はうなりつつ、俺ではない分霊の記憶を探るけれど何かわかるでもなく、しかも本来の本丸帰還ゲートは鳥居の形をしたモノだといういらない情報までひろってしまった。このような時空の歪みは本当に戦争が始まった初期のも初期の代物らしい。何十年前だよソレ。いまだにおしゃべりできない俺はフルフルと首を振って意志を示した。コレは本丸に帰って筆談する必要があるけど…肝心の装置がこれじゃあ…

こまり来た様子であたりを見回しつつ思考を巡らせれば別の俺の記憶に何やらヒットする。

しかしそれをつたえる術がない。いや、喋ればいいのはわかっている。だけど…。ふと目に留まる砂利道と転がった木の枝。それを目にとめた俺は知らずに口元を緩めた


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