短編集/男主 | ナノ


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「さあ、おいで柄ができた」




飾られた私(刀)の前で職人を読んだ道真様はお手元の書物をどかせて私を膝に乗せた。
そしてそっと私の髪をやさしくなでるとほほ笑まれる。私はこの顔がとても好きだ。

宣言の通り私を買った道真様はこのお屋敷の中で私を唯一認識できる方。ここにきてまだ少ないけれどとても大事にしてくれる。それに、この人は多分霊力の強い人なのだろう。本来なら私に触れることなんて不可能だ。…それにしても菅原道真ってどこかで聞いたことがある気がするのだけれど‥。どこだっただろうか。




「童や童。何を考えている?」
「んー。ととさまのこと」
「ふふ、そうかそうか」




めっちゃ麗しいからなんかどうでもいい気がしてきた。

ムフフと撫でられる頭を揺らせば「こら」と小突かれ、「ごめんなさあい」と笑う。その間にも職人が私に触れてゆっくりと柄をつけていく。それに伴いわたしの装いは元服する前の男児が身にまとうような淡い黄緑色の装束になって髪も変化していった




「童、すまんなぁ。私はまだお前の名前を決めかねているよ」
「ととさま、ゆっくりでよいですよ。たくさんじかんはあるのです」
「…そう、さなぁ、お前にとっては、そうかもしれなんなぁ」




だからこそ




「お前が一生をもって誇れる名を、私はあげたい」
「―――っ、うん、まってるね、ととさま」




うれしい、うれしい、うれしい。湧き上がる衝動を私は抑えることができなくて、くぅっとほおを抑えて笑みをこぼした。道真公が私にくれる名前は何になるんだろう。ドキドキしてワクワクして、視界が明るい。

そんな約束を交わしてどれくらいの時が流れたんだろう。短い気もする。長い気もする。いつの間にか屋敷の雰囲気が重いものになっていた。父様は昇殿して帰ってくるたびに重い溜息を吐かれる。そしてある日、私はその目で父様の肩の上に乗る尾の二つに裂けた猫を見た




「ああ、重い、ああ、めまいが…わらべ、わらべやどこにいる…?」
「ととさま…それっ…」
「童、どこだ、童っ!」
「きこえないの…?ねえ、ととさまっ…」




にゃあと猫が鳴いた気がした。
なんどもなくのだ、にゃあと




「童、童…」
にゃあ
「ここ、ここにいるの。ととさま、わたしほんたいからはなれられないの、ととさま…」
にゃあ
触れればわかってもらえるのに、なんで猫が、言葉を遮るように邪魔をする
「ああ、猫が、猫の声が」
「と、とさま」
にゃあ

よくないものだ、あの猫は良くないものだ。

―――斬らなきゃ。


馬鹿にするように猫が目を細め、挑発するように道真公の肩から降りて私に近づく、降りた瞬間に道真公は私の姿を目にうつし、喜色を浮かべたが、私に近づく猫を目にして、私に手を伸ばす、けれどそれよりも私のほうが早い。普通ならこの体格では持てぬ己を手にして




「だれのあるじにてをだしているの、このあやかしふぜいがっ!!!」




一閃




きらめく白銀が目を横切り、猫はその頭と胴体と分裂し、消えた


に“ゃ…あ”



猫が消える瞬間、その猫は私をにらみつけるが、何もできずただ鳴き声を残す


そして呆然とこちらを見つめる道真公に、私の緊張は一気に語解け、ギャン泣きした




「わ、らべ…」
「うっ、え“え”え“え”え“え”!!!どどざまぁああああ!!」
「ん“ぐぅ!」




近くにいた父様の腹に突撃をかました私を受け止めつつ、すごく苦しそうな声で少し待てといった彼はその場にうずくまった。腹を抑えて

その間に私はひたすら父様の衣を握りしめギャン泣きを繰り広げ、父様は父様で御付きが来るまでの間、うずくまりながらうめいていたのだから奥様に笑われてしまい、始末が悪い

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