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カン、カン、カンと音がした。
誰かが話し合って、誰かが笑いあう音がする
カン、カン、カン。
誰かが私を作ってる
「ああ、よい刀だ」
カン、カン、カン
ああ、ここは、どこかなぁ。なんだかとても暖かくて、お布団みたい
「道真様、あなた様もどうぞ、打ってみてはいかがかな」
「なに、私がか?刀に私の手が加わってよいものか」
「なぁに、私は気にしませぬ。きっとこの刀も気にするまい」
「ふぅむ、ではどれ一つ」
少しおびえたように、けれどどこかうれしそうにその人は私を打ち付けた。
カン、カン、カンと鉄を打つ音が響く
軽やかにやさしく、繊細に。思わず私はくすくすと笑みをこぼしてそっと彼に向けて笑うのだ。
私はこの刀なのかもしれない。
なんだか不思議な気持ちだ、病気で死んだはずの私がここにいることがとても不思議な感じだ。輪廻転生というやつなのだろう
徐々にクリアになっていく視界にとらえたのは良い衣をまとった人の子が、熱い鍛冶屋の中で楽しそうに私を打っている姿だった。
ふと、男の目が私に向く。振り上げていた小さいトンカチのようなものを持つ体制で固まっていて、なんだかおかしくて、私はそっと笑い声をかける
『頑張って、ととさま方』
頑張って。ニコニコと笑いながら良い着物を着た父様と上半身をさらけ出し、立派な肉体簿を披露する父様の周りをくるりくるりを回るのだ
着物の父様には見えているのに、この父様には見えないようで、けれど何かがいるのはわかるのか視線をさまよわせている
「道真様…」
「ああ、童がおる。この刀は、九十九の宿る刀ぞ」
こちらに手を伸ばしてくれた着物の父様の指を握ってほほ笑むと、彼はとてもやさし気に微笑んだ
「ああ…刀匠殿、この刀、この道真が買い取ろう」
――おいで、お前の名前は何にしようか
誰に言うまでもなくそう言った父様、菅原道真公はやさしい笑みを浮かべた
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