短編集/男主 | ナノ


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正直、昔から深く考えない性分だった。何か問題事が起きても最終的にはどうにかなるだろうと楽観視。死んだ時だって、「俺どこに行くんだろうなぁ」なんて考える。正直どうしようもない性格で、でもそんな俺だったから自分の死を悲観的にとらえることもなく、おぎゃあと生まれた瞬間から見える化け物みたいな奴の存在も受け入れた。

父も母も、所詮そういうバケモノが見える人間で、幼いころから「アレは普通の人には見えないんだ」と教わる。なるほどそういう世界ね。把握。なんて正直あっさりと頷きながら俺の人生は始まった。

見えてしまうならしょうがないと父も母も全力で俺を扱いたし、転生していたとはいえ幼心を持つ俺は生きる為にその修行に耐えた。死ぬのが怖かったんだと思う。あと痛いのも嫌だった。


だから高専ってところに入ることも知ってたし、ある程度心の準備も出来ていた。周りから能天気だと揶揄される俺にとっては、そもそも心の準備が出来ていたことに対して褒めてほしいという気持ちがある。

高専に入学して一番最初に思ったことは人数の少なさ。俺と七海って言う奴しかいない。しかも常にむすっとしてるし、人生楽しい!何て思ってないだろ。俺と正反対みたいな奴だった。

次に思ったのは先輩方の規格外さ。

呪術界のパワーバランスを崩しまくった先輩と、その先輩に並ぶほど実力をもった先輩と、反転術式って言う超超超レアな術式を使う先輩。聞いたときは思わず七海と顔を合わせてしまったものだ。俺たちの担任が俺たちを見てあからさまに残念そうな顔をしたのが忘れられない。しかしそこは俺だった。本来なら話しかける事すら許されないレベル差がある先輩方に全力で懐いたのだ。これには同級生である七海すらあきれ果てていて、でも先輩方には好評だった。


「五条せんぱーいっ!!!」
「灰原!!来い!!」


出合頭、たまたま廊下で目があった五条先輩に駆け寄るため声をかければ、サングラス奥に隠れていた青色の目を輝かせ、彼が腕を広げる。そういうことならと脚に力を入れたあたりで、首根っこを掴まれると、子猫のような感じで宙に浮く。ぷらーんと放り出された手足。誰だろうと横を見れば、五条先輩に声をかけるまで会話をしていた七海だった。険しい顔で五条先輩を睨み、次いで俺を見下ろす。


「君と喋っていたのは私です」
「たしかに…!!」


ハッとして頷けば、廊下の先にいた五条先輩が何かを叫んでいた。


「七海!!てめー!また邪魔しやがって!!」
「ふん」


五条先輩の癇癪に鼻を鳴らす七海。奥の方で笑う先輩方に、俺もヘラッと笑った。何をヘラヘラ笑っているんだと、敬語を外し七海が言う。


「自分とほぼ同じ身長体重の俺を摘まみ上げる七海スゲーなって」


心の底からの本音を零せば、彼の眉が少し跳ねあがった。ぱっと離される感覚に、少しばかり脚に力を入れて地面に立つ。いつの間にか近くに来ていたらしい五条先輩が俺の頭を乱暴に撫でて、七海に構いに行った。それを嫌そうに受け入れる七海を見て笑えば、後で覚えていろとでも言うような顔で睨まれる。

仕方ないじゃないか。五条先輩は存外さみしがり屋なんだ。かまってあげないと拗ねるんだと、夏油先輩が言っていた。




先輩方が長期任務から帰ってきたとき、俺はそっと首を傾げる。なんだか変な空気だ。七海ですら不思議そうに首を傾げ、担当に聞いた。俺たちの担当である先生はいつものようにめんどくさそうな顔をしながら答える。やっぱり呪術師はクソ。七海がそう呟いたのを聞き、俺は夏油先輩の元に走った。

夏油先輩が俺の頭を撫で、ジュースを奢ってくれる。

変な女の人が夏油先輩の前に立ち、笑った。俺はその時も何も考えずに、ただ本能に任せて好きなタイプを答えたと思う。だって嫌な感じはしなかった。こんな俺でも人を見る目だけは確かだと自負しているから。何処か落ち込んだ様子の彼の顔を覗き込んだ。


「先輩さ、考えすぎだと思うよ」
「えっ」
「三年の先輩の中じゃ、まあ、五条先輩と家入先輩だし、夏油先輩が頭使うのも仕方ないけど、ある程度自由に生きていいんじゃない?」
「君みたいに?」
「俺マジで頭空っぽだからソレはオススメしない」


七海に何回脊髄反射で生きてるんだお前はと怒られたことか。


「グダグダ考えるのって疲れるじゃん?だから先輩みたいなタイプはちょっと息抜き必要だって」


スマホが震え、担任から罵倒交じりのメールが飛んできた。ああそういえば今から任務何だっけ、俺。


「灰原は、素直に生きるね。ほんと」
「だってソレが俺だよ?」
「そうだね。ああそうだ、灰原」
「?」
「悟がさ、君らが任務から帰ってきたとき甘いものを食べたいんだって。良かったら付き合ってあげて欲しい。私の代わりに」
「え、ソレ夏油先輩いかねーの?」
「私は甘いものが好きなわけじゃないからね。いつもは付き合うけれど…。でも、少しだけ、自由に生きてみようと思うよ」
「おっ、そのちょーしですよ、先輩。じゃ、俺任務なんで!!終わったら焼肉でも奢ってくださいね!!」


ぱっと腕を上げ、集合場所だと言われた場所まで向かう。途中五条先輩に会ったが、軽く手を振られるだけで終わった。多分忙しいんだろう。



「ごめんお待たせ!」





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