短編集/男主 | ナノ


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ナイト・エロースという生徒がいる。涼し気な目元に濡羽色の髪を持つ美しくどこか騎士のような細身の体格をした男である。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と三拍子揃った彼はポムフィオーレ寮の三年生で、学園の生徒及び、教師からの覚えもめでたかった。悪い意味で。


…悪い意味でというのは理由がある。その理由は彼が性というジャンルにおいて非常にオープン(ド変態)過ぎたからだ。口を開けば性交の体位と卑猥な単語。真面目な顔をして読書をしているかと思えば見ているモノは官能小説。授業中、ノートに記されているのは公式ではなく言葉に表すのも憚られる単語たち。それなのに性格も悪くはなく、成績は常に五位以内をキープするモノだから決まりが悪い。しかも入学当時の彼というのはポムフィオーレ生に相応しい生徒だった。闇の鏡が入学式時に悲鳴を上げ、恐る恐る「美に括りはあるのか」と聞けば、その麗しい顔をそっと綻ばせ「(セックスは人間の美を体現するものだし…)あります」と答えて見せる。そう、入学式時はまともだったはずなのだ。それなのにどうしてこうなってしまったのかと同学年や上級生、はてまた教員は頭を抱えた。知らぬが仏である。


そう、知らぬが仏なのだ。今年入学してきた一年生たちが図書室の窓際で日の光に照らされながら優雅に読書を楽しむナイト・エロースに心奪われようと彼の本質を教えることはしない。夢は見れるうちに見た方がいい。見れなくなるのも時間の問題なのだから。


どうせその手に持っているのも官能小説。二年生以上はわかっていた。しかもただの官能小説ではない。彼自身が監修、執筆、創作した立派な(自己満足)エロ本である。イグニハイドあたりに受けがいいのも腹正しい。その内容は言葉にするのもおぞましく(ツイステッドワンダーランド視点)しかしどこか心惹かれるモノで、公言はしないが手元に置いている男子生徒は少なくない。今までの性行為に対する認識が覆されるのだ。まあ、それでも彼が極度の(性に対する)異常者であることは疑いようもない。


男子校であるということを好きに口を開けば卑猥な言葉を連発。最終的についたあだ名はポムフィオーレ生あるまじき「歩く18禁」。ストイックな見た目と裏腹の言動はもはや車とトラックの衝突事故。ギャップなんて可愛らしいもではなくただの核兵器。無防備に彼の前に出ようものなら容赦のない放送禁止用語(ツイステッドワンダーランド的に)を真っ向から喰らうこととなり、間抜けな姿をさらすだろう。もはや暗黙の了解ではあるのだが、彼の友人である現ポムフィオーレ寮長があまりの壮絶さに気絶したのは伝説として語り継がれている。


さて、そんな彼であるが性の話をしなければ基本的には無害。ナイトレイブンカレッジの中でも常識人に分類される。まあ彼が性の話を口に出さない日があるのかと聞かれれば誰もが口を閉じるだろうが、それでも彼は酷く穏やかな性質の人物だった。意外に思われるかもしれないが、猥談という一種のデメリットさえ気にしなければ(無理な話ではあるだろうが)付き合う行為自体は別に難しいことでない。そんな気質故か彼の周りには常に人がいた。今もクルクルと甘える様に喉を鳴らす一つ年下の獣人が傍に侍って、片手間に喉やら耳やらを指で擽られている。

不意に彼が本から目を離して横にいた獣人に声をかけた




「閃いた。なあラギー、獣人ってバックでしねぇの?」
「…」




刹那、あたりが静まり返る。バック…。バック…?一年生が良く分からないと言わんばかりに彼を見る。二年以上はそっと椅子から立ち上がると同僚の一年の腕を引き図書室から出た。取り残されたのは逃げる体勢に入れなかった上級生と同じ寮の先輩が居なかった一年数人。ここから彼らの地獄は始まることとなる。




「…ナイトさん、俺帰って良いっスか?」
「いや、俺常々気になってたんだけどさ、動物なんて人間でいう四つん這いで交尾するだろ?雌が下になった状態から雄が上に乗っかって激しく腰動かすじゃん?じゃあ俺ら人類の中で動物に近い獣人ってバックでしねぇの?強い雌ほど屈服させたいとか思わない?最初は反抗的な目で見てくる雌が次第に「やめろっ。やめろっ…!」って言いながらも抵抗する力が弱くなって縋る様な手つきで雄にしがみついたり、顔を隠すように四つん這いの状態だからベッドに顔をこすりつけてヒンヒン喘がないの?そういうシチュとかないん?てかラギーってスラムだよね。スラムってレイプ横行したりとかしてない感じ?レイプする時も正常位でゆっくり動くの?「嫌がってる割には身体は素直だな」って言ってんのにはたから見たらスローセックスのラブラブセックス(笑)みたいな感じなのかなレイプって」




とんでもねぇド下ネタだし、昼間からする内容じゃないし、健全なツイステッドワンダーランドの住人からしてみれば茶の間で放送する場合規制が入るレベルである。何ならその人物の人格すら問われかねない言葉だった。放送禁止音が入るならきっと原型すら留めず、何を言っているのかわからないほど規制が入るに違いなかった。

※以下は放送禁止音を入れたセリフになります。■■■には「ピーっ音」が入るためご了承ください




「いや、俺常々気になってたんだけどさ、動物なんて人間でいう■■■■■で交尾するだろ?■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■じゃん?じゃあ俺ら人類の中で動物に近い獣人って■■■■■■■■?■■■■■■■■■■■■■■■■■?最初は反抗的な目で見てくる雌■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、顔を隠すように■■■■■■■■■■■■ベッドに顔をこすりつけて■■■■■■■■■?そういうシチュとかないん?てかラギーってスラムだよね。スラムって■■■■■したりとかしてない感じ?■■■■■■■■■■■ゆっくり動くの?「■■■■■■■■■■■■■■■」って言ってんのにはたから見たら■■■■■■■■■■■■■■■■(笑)みたいな感じなのかな■■■って」




もはや放送事故である。真正面からソレをくらったラギーの耳はぺしょりと伏せられて、心なしか震えている。健全なデデニー産男子にこの所業は鬼畜以外の何物でもないだろう。誰が真昼間からドキツイ下ネタブッ込まれた挙句の果て自分の故郷はどうなんだと聞かれてみろ、普通は泣く。




「そ、そもそも女にそんなことする奴いねぇっスよ…。」
「よく子孫繁栄出来たな。不幸な子供がいないって逆にすごいぞ。」
「ナイトさんこそどんな修羅の国で生きてきたんスかっ!!」




マジありえねーーっ!!!そう叫びながら一気に彼の傍から飛びのいたラギーは威嚇するように耳をピンと逆立たせた。




「普通の国のはず…。ってことはこの世界にレイプという概念が存在しない…?みんな子供大好きで愛してて健やかに育つ世界…?ある意味完成されてるな、恐ろしい」
「恐ろしいのはナイトさんの頭っス!!」
「馬鹿野郎。男と男が集まってやることなんか猥談以外に何があるっていうんだ。おっぱいのサイズ感とか自分の息子の太さと長さ、扱く時のシチュエーションっていう最っっっ高に最低な下世話話してる時が一番盛り上がるだろ」
「最低なのはナイトさんの発言ってのをそろそろ自覚してもらっていいっすか?」




下水道の汚物を見せられたかのような冷ややかな声。それでも彼はめげなかった。高潔な騎士にすら例えられるような外見をしていながらその口から出てくるのは酷すぎる下ネタ。というかズリネタ。世が世ならしょっ引かれ豚箱にぶち込まれるレベルの言葉である。ラギーは心配だった、この先輩が社会へ出た時警察にしょっ引かれないか本気で心配だった。




「男って最低なもんだよ。好きじゃなくても女なら正直裸を見るだけで興奮するし、好みじゃないAV見ても息子は元気百倍だし、はっ…!そうだよ、俺が元気ならレオナとか好みのみの雌見たら元気百倍どころか元気一億倍で乱暴に女扱いながらセックスするんじゃね??」
「うちの寮長のことそういう目で見るのやめてもらっていいですかね!!???」
「正直顔が良ければ俺は男と男のセックスでも見れるんだけど、ほら、ラギーとレオナとか」
「自分の欲望にしか正直じゃない所は嫌いじゃないっスけど本当に勘弁してください」




口を開けばこれである。黙ってろポムフィオーレのR18禁。その言葉をこの学園の生徒は何度繰り返したのかもはや覚えていない。犬も歩けば棒に当たるとは言うが、彼らの場合NRC生も歩けば変態に当たるである。仕方ない。この男、交友関係が広すぎて基本的にどの寮にも出没する。なぜ出禁にされないのかはもはや七不思議であった。




「ところでレオナのレオナってデカいの?」




ラギーは無言で席を立つと、そのまま図書室を出て行った。ここまで耐えきった彼に図書室から拍手が送られる。今日もドギツイ下ネタだったなと上級生は頭を抱えて、当の昔に気絶した一年の肩に触れて揺さぶった。あれが現実だ受け止めろ。洗礼を受けてしまった彼らは可哀想だが遅かれ早かれ辿る道。今後は気を付けろよと胸の内だけで思いつつも、彼らは顔を覆い深い深いため息をついた










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