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遊木真はその日が自分の命日であると確信していた
その理由は昨日故意ではないとはいえとある先輩の邪魔をしてしまったことにある
聞き覚えのない音楽と魅惑的な歌声に惹かれふらふらといつもは開いていない第12レッスン室への扉を開いたのが大きな間違えだった。今なら言える、おい辞めろ、生き急ぎすぎだ自分、と
扉を開けたそこにいたのは今を時めく噂の先輩
切れある動きに高度なステップ、そして明らかな歌唱力は一目で彼を虜にしてしまう
思わずぼうっと見惚れていると手元がおろそかになっていたのか思いっきり音を立ててしまい先輩はダンスを中断してその冷え冷えとした瞳でこちらを見下ろした
「誰だ」
威圧感のある質問に怖気づいて逃げ出してしまった自分は何という大ばか者だろうか
同じチームメイトやマネージャーは謝れば許してくれるよと励ましてくれたが、あんなに冷えた瞳をした彼がはたして自分を許してくれるだろうか
考えれば考えるほどため息が出る
「おーい遊木―、おきゃくさん」
「えー、いまそんな気分じゃーー…」
「そうか、なら出直そう」
「へぁ?」
思わずアイドルあるまじき変な声を上げる
そして恐る恐る後ろを振り向けばそこにいたのは先ほど自分が考えていた人で
「あぁぁああああかつひせんぱいっ!!」
「?俺の名字は暁であかつひではないぞ?」
「そそそそ、そうですよねぇ!あははは☆ぼくよく間違えるんです!」
きらっと笑いごまかすが背筋を流れるのは冷汗。
ヤバい僕ホントにやられちゃうかも
スバル君ごめん、コンビ解散だねとここにはいないいつもじゃれあう彼を思い出して目を閉じた
「ところで遊木、だったか?」
「はい!」
「これ、お前のだろう、昨日忘れていたのを見つけた」
そう言って渡されたのは青いリストバンドで確かに昨日見かけなかったものだ
それをどうして
「これを届けに来ただけなんだが、間が悪かったんだろう、悪いな」
「い、いえ!たすかりました!」
考えているうちに先輩はこちらに申し訳なさそうな顔を向けた
遊木が気にしないで下さいと首を振れば表情を和らげてその髪をぽふぽふと撫で背を向ける
「もう、なくさないように」
数分後
「おーいウッキー?どうしたんだよ」
「カッコいい…」
「??」
「スバル君!暁先輩ってかっこいいね!」
「急にどうしたのウッキーー!!?」
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