短編集/男主 | ナノ


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「離して!!離しなさいよっ!!私はルイ君と結ばれるの!!ルイ君は私と結ばれる運命なのよ!!今世では結ばれないから来世結ばれるの!!私は彼と一緒に死ぬ必要があるのよ!!」
「お願いだ勝手に決めないでくれ!!!」




外見だけなら上の中に居そうな女性が教師陣に拘束される。その光景を見つめながら生徒たちはまたかとため息を付いた。悲しいかな、とある生徒が入学してきてからというものこの学園では度々このような修羅場(※一方的)が巻き起こる。今日も今日とてハーツラビュルの寮長とスカラビアの寮長に挟まれながら涙を流し、身体を震わせる男を生徒達は視界に入れ苦笑した。アレに魅入られるのはしかたないだろう。ヒンヒンと乱暴にされた女かのようにホロホロと涙を流す男の容姿は大層美しい。


濡れた鴉のように艶のある黒髪が緩いウェーブを描き、涙の浮かんだ紫水晶を埋め込んだ瞳が煌き人を魅了する美しいさを放つ。左の目尻に浮かぶ黒子と否が応でも引き寄せられる甘く蕩ける様な顔立ちをした男。それが今回の修羅場を引き起こした…、否、引き起こされた男であり名をルイ・フィールといのだがこの男、とことん顔に似合わない性格をしていた。その顔を使い余すことなく活用すれば将来食うには困らないだろうし、腹をくくって金持ち美女のヒモにでもなれば人生楽に過ごせるだろう。が、ルイ・フィールはソレができない。幼いころから続けられた女性から受けるセクハラと重すぎる愛。道を歩けばメンヘラを作り、言葉を交わせばヤンデレを製造し、女性たちの頭の中で生み出される「交際日記」という名の妄想で最終的に流血沙汰を引き起こす。


事前説明を受けたはずの学園長ですら実際に学園内で多発する女性間(一方的)のトラブルをその目で見るまでは誇張だと笑い飛ばした。結果は言うまでもなく、たまたま通りかかったレオナ・キングスカラーと彼の同級生であるリドル・ローズハートがいなければルイはこの世にいなかっただろう。慌てて現場へと駆け付けたクロウリーが見たのは可哀想なほどに身体を震わせて己よりも小さいリドルに抱き着きオンオンと濁流のように涙を流すルイと、そんなルイを母親のように抱きしめて「もう怖い物はないよ。大丈夫だから」と慰めるリドル。他に敵はいないかと威嚇しながらあたりを見渡すレオナだったのだ。ほんの数十分の間にあのキングスカラーから庇護対象に認定されたらしいルイのソレはある意味才能だった


さて、そんな事件はその女を皮切りにひと月に一回のペースで発生した。その度に護衛役(自主的)として彼の傍に多くいるリドルが首を刎ねて事なきを得るのだが、防ぎきれないものもあるのは事実。その度にルイが泣くだけだ。


そんな事件が毎月毎月発生すれば当事者以外の人間も「やべぇ、アイツ一人にしたら死ぬわ」と理解し彼の周りには人が絶えなかった。勿論ルイ自身の穏やかでどこか小動物のような可愛げのある性格も理由の一つだろうが、とにかく彼は男たちの庇護欲を全力でそそったのだ。それは一つの生存戦略ともいえるし防衛本能ともいえる。顔がいくら夜のイケナイ街で女を侍らせ食いものにしているような外見(しかもそれが許されるほどには整ってる)であったとしても彼らの中でルイは庇護対象だった。さて、そんな感じで学園内における庇護対象という地位を築き上げたルイの学園生活は今までの日常に比べれば大層平和であり、もう俺は学園に住む。ホリデーも絶対家なんかに帰らないからな!!と決意を固める程度には彼も女性には参っていたらしい。あまりの彼の不憫さに基本属性:悪であるはずの彼らはホロリと涙を零した。


一年間もそんな現場に居合わせた学園の生徒たちは「ああ、またポムフィオーレの…」と、今回のストーカー女学園侵入事件も生徒たちはさほど騒がずにそれぞれがまた何かおいしい物でも奢ってやるかと当人に傷一つないことを確認したのちに解散した。




「う“ぇっ…!お、おれもうヤダぁっ…!!」
「よしよし、可哀想にね。ルイは何も悪くないのにね」
「気にすることないぞルイ!あんなの素人の暗殺だからな!!」
「重いネタブッ込んでくるカリム嫌いっ!!」
「ええっ…!!??」




入学式も近いというのに今日も今日とて彼のストーカーは手加減などしてくれなかった。そう思うだけで悲しくなる。何せ物心つく前からそうだった。ルイという青年は小さいころから魔性で彼が微笑めば大人たちは逆らえず、彼が涙を零せば周りの子供も黙り、彼が歌えば小鳥たちが囀る。そんな御伽噺から出てきたのかと首を傾げる両親の純粋な愛情と周りの人間の手を借りて彼は生きてきた。


そこにちらつく怪しい影が多かったことは否めないのだが、小さく、まだ行動範囲の狭い子供を守ることなど大人にとっては造作ない。でも忘れないで欲しい。彼はすでに小さいころからストーカーを飼っていたのだ。ルイはルイの美貌に酔いしれず、害にならない大人の女性は小さいころからお世話になった近所のお姉さん方と苦楽を共にした幼馴染の少女たちしか知らない。


10歳になって学校に通いだせば担当教員しかり同級生すら犯罪者予備軍へとしたてあげた男である。年を重ねるごとに増える色気と怪しい方面全振りの外見。世が世なら街を歩くだけで歩く18禁認定を受けたかもしれない。男でもグラつく程度には妖艶な美貌である。男よりも女が引っかかるだけで彼のストーカーの中には男も混ざっていた。


そして幸か不幸か、彼には魔術の才能があったらしい。五歳の頃にはユニーク魔法と呼ばれるものの片鱗を垣間見せ、13過ぎる頃には過剰防衛というにふさわしいほど攻撃にも防御にも優れたユニーク魔法【零れ落ちる宝石/ジュエリー・ファール】を作り上げてしまった。その効果は彼が感じた恐怖・苦しみ・悲しみに比例して対象者を高硬度の宝石内へと閉じ込める魔法である。常時使える魔法というわけではなく、恐怖等が限界に達した時、突発的に発動する魔法。副作用として稀にではあるが、彼の体内に宿る膨大な魔力を放出させるため、涙を流すとその涙が地面に落ちる際に色鮮やかな宝石へと変わることもある。




「こら、そんなことを言うのはおよし。ルイ立つんだ。泣いてばかりでは授業に遅れてしまうよ」
「う“ぅ”っ…。女の子怖いよぉ…」




 リドルに腕を引かれ、ふらふらと横に揺れながら立ち上がる。妖艶な外見通り、その背丈も高く、リドルより頭一つ以上飛びぬけていた。本当、この男はどうやってこの先を生きていくつもりだろうと誰もが不安に思う。そんな泣き言を零す彼にハイハイと相槌を入れ名ながらリドルとカリムは彼の手を引いて教室へと向かった



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