短編集/男主 | ナノ


▼ おまけ



そのニュースはイグニハイド寮を駆け巡った。

我らがイグニハイド寮寮長。イデア・シュラウドがゴーストの姫君に見初められて攫われたらしい。「ピー〇姫かよ」と寮生は口をそろえて言い放った。では寮長を助けるために奔走している性格の濃いメンツが某鉄管工事の赤いマンマ・ミーアなのかと言われれば首を傾げるだろう。

さて、仮にも自分たちのリーダーが危険だというのに当のイグニハイド生は何をしていたのか。ある者はレイドを走り、ある者は音ゲーに勤しみ、ある者は画面上の彼女に愛を囁いていた。誰一人イデアを助けに行く気はなかったのだ。多分、陽キャがどうにかしてくれるから俺らは大人しくゲームをしていよう。

・・・ところで、イグニハイド寮きっての問題児ことコミュ力お化けであるカイ・レッパラートだけはイデアがゴーストの姫君に攫われたことを知らなかった。何ならなぜスマホゲームで雑魚モン倒していただけの自分が教室から追い出されたのかすらわかっていなかった。

状況を理解するのに人よりも一時間遅れたくらいだ。それまで彼はひたすらにイベントを走り、順調に順位を上げていた。不意に、ゲームに集中していた彼をのぞき込むような影が差し込む




「先輩…」
「ヒョェッ…!??か、監督生?あっ、今日は女の子…」
「先輩が男の私がイイっていうなら、私はいつでも男になる覚悟が…」




カイ・レッパラートは全力で首を横に振った。そんなことされてみろ、自分は次の日海の藻屑だ。ちょっと涙を流しながら否定した彼をどこかうっとりとした目線で眺め、監督生はさりげなく彼の横に腰を下ろした。ふわっと香る柔軟剤の香りと、毎朝手首に少しだけ振りかけているという香水の香り(本人の口から聞いたものではないとする情報)がカイの体臭とよく合っている。

文面だけ見れば大変な変質者であるが、監督生の見目はいい。基本何をしても絵になった。つまり何をしても基本的には許されていた。だって学園唯一の女の子で目を見張る美少女である。それだけで大抵のことは許されるのだ。




「えっと、監督生、どうしたの。俺に何か用?」
「はい、実はイデア先輩がゴーストに攫われてしまったんです」
「イデアが?」




横に座ってきた監督生に対し、カイはそっと距離を取るが、そこはすかさず監督生もスススッと距離を詰め、にっこり笑う




「そうなんです、私もカイ先輩が他の女にプロポーズするなんて正直腸煮え繰り返りそうなんですけど…。でも、イデア先輩の命には変えられなくって…」
「え、でもイデアがいないってことは今回のイベント、俺一位取れるんじゃ…」
「・・・先輩?」
「ごめんね監督生!!俺!イデアを抜かすためにレイドを―ーー…!」
「ブチ犯されたいんですか。可愛いですね」
「・・・ヤダ…」




名案だ!チャンスだ!!そんな感情がありありと乗った表情で立ち上がるカイに対して、監督生はどこか荒ぶるように目を細め、にっこりと笑いながら言い放つ。

しおしお…。

小さな声でもう一度「ヤダ…」と言い、ストンとカイは座り直す。

恐る恐ると言わんばかりにゲーム機を片手に監督生をそっと見れば、彼女は綺麗な笑みでにっこりと微笑んだ。機嫌を窺うように見ているはずなのにゲーム機を操作する手を止めない辺りイグニハイド生である。ちなみに彼はたった今イデア(囚われのピー〇姫役中)を抜きトップに躍り出ているのだから、その情熱と努力(なお学園生活において需要はないものとする)は舌を巻くほどだ。三位との差は歴然であり、これなら逃げきれそうである。




「そうですかぁ〜。嫌ですかぁ〜。じゃあいっぱい手伝ってくれますよね?」
「ピエッ」




腕に胸を押し付けるよう抱き着かれ、カイは悲鳴(※鳴き声)を上げた。それでもゲーム機から手を離さず、どんどんイデアとの差を決定的なものへとしていく。既に第二陣が頬を張られているため、監督生にも学園側にも後はない。…まあ、純粋に監督生としてはカイに接触(※セクハラ)したかっただけなのだが、それを突っ込むデュースはすでに地面に転がった後である。南無三。

顔を赤くしてコクコクと必死に首を縦に振るカイを舐めまわすように見つめ、じゃあ、行きましょうか。あ、手を繋ぎましょうね逃げられると困るので(セクハラ)

肩に乗って事の成り行きを見ていたグリムはしょっぱい顔をし、そっと肉球をカイの頬に押し当てる。可哀相だった。








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