短編集/男主 | ナノ


▼ 1




 死んだ。トラックに跳ねられて死んだ。笑えなかった。


 どうもこんにちは皆様初めましてオタクここに極まりてみたいな人生歩んできました。大きなお友達こと、元日本人成人男性、黒木翔太こと、現フェイ・クロキと申します。いっぱい「こと」が付いたね!皆、俺のテンションに付いて来てるかな??つまり死んで転生したと思ったらよくわからない魔法とファンタジーに溢れる不思議な世界に転生していたよ!やったぜ!!俺知ってるよ、こういう転生のことトラ転って呼ぶんだよね???
 

……とまあ、テンション高めに自己紹介をしたわけだが、少しだけ俺の話を聞いてほしい。


 今現在、俺は怒り狂っている。いや、死んだことは仕方ないと思ってる。人間誰しも皆平等に死んでいくものだ。そう、死んでいくものだが、死んだタイミングが滅茶苦茶悪かった。なんせ俺はその日、好きなアニメのグッズをネットで予約し、家に帰れば撮り溜めたアニメを見る予定だったのだ。金曜日の出来事である。


 俺!まだ先週のプリキュア履修してない!!!俺の嘆きは強かった。今週までは色々忙しかったから、先週どころか今週あったであろうプリキュアも履修してない。二週間分のプリキュアを見てないっ…!!!そして明後日はまた新しい話がアニメで放送される予定だったのだ。


 だからこそ、俺の心の活力であるプリキュアを楽しみにルンルン気分で帰路についていた。するとどうだろう。信号無視したトラックにはねられてお陀仏、はいおしまい。いや〜クソだわ。ぜってぇ地縛霊になってやるから。俺はあのシリーズを見終わるまで死ぬ気はなかったのだ。呪う、あの運転手を呪う。たかが数十年豚箱に突っ込まれて人生謳歌しようなんざ生ぬるい。地の果てまで追いかけたるわ。


 フンスフンスと固い決意を胸に腕捲りをしていたとこで、ちょんちょんと肩を突かれ俺は後ろを振り向いた。どっかで見たような顔をした爺が「きみ、ちょっと手違いで死んじゃったけど、まあ、大きなお友達って生きてて害しかないから反省して来世楽しんできなさい」と言われた。俺は爺を締め上げた。お年寄りに優しくしなさい???どの口がほざいてんだお前、お?やんのか???殺意マシマシである。自分でも、ちょっと大人げないかな??って思ったけど俺は今此奴に馬鹿にされたし、なんなら此奴の方が俺より年喰ってそうな見た目してるため、俺の良心は刺激されなかった。俺の心は週に一度の楽しみを二週間我慢した挙句の果て永久に続きを見ることが叶わないという地獄の中にいるので荒ぶっていた。殺す。


 爺は「ギブギブ!ギブだからっ!おじさん神様だからね!!??もっと敬って!?そんなに転生嫌なの??でもおじさん決めちゃったから!!!おじさんとおじさんのお友達の神様の間で転生させるの決まっちゃったから!ほら!黒木君の大好きなプリキュアが実在する世界だから!」と言われ、俺は荒ぶる心を落ち着けた。それを早く言えと吐き捨てる。「やだ、物騒…。最近の若い子怖いんですけど」と言い放つ爺をもう一度締め上げた。君の好きなプリキュアはそんなことしない??そうだな、あの可憐で可愛い彼女たちがそんなことをするわけない。きっとどんな暴挙を前にしても「そんな…!あなたはそんな人じゃない!目を覚まして!!」と慈悲と慈愛の精神をもって正してくれるだろう。好き。でも俺プリキュアじゃないんでぇ。社畜大国日本に住み、毎週土日にお菓子食べながらプリキュアをリアルタイムで心の幼女先輩と応援し、映画情報の更新を待つ一般的な規則正しい大人なんでぇ!!


 荒ぶる邪神の如き俺に恐れをなした自称:偉い神様(笑)はとりあえずいろいろ転生得点をつけるから!!ごめんね!!??と言い捨てると俺を無理やり空から落として転生させた。マジでクソだな。これだから大人は!!!!プリキュアのピュアな心と優しい精神を見習えってんだ。そう思いながら転生した。


 転生した先はかなり良いところのお家で、小さいころから周りをガチガチに警備された。やんごとなき血筋、貴方は尊い方と言われ育った俺は、普通ならきっといけ好かないクソガキになっただろう。だが俺の心にはいつでもプリキュアがいた。優しい心を持つの、人を信じて、時には手を差し伸べましょうと彼女たちが囁く。親はクズだったが、俺が慈悲の心をもって接し、時には諭し続けると次第に良い貴族となって国を支え始めたのだ、やっぱりプリキュアは偉大だな。
 

 そんな日々を過ごしていると名門のナイトレイブンカレッジ、ロイヤルソードアカデミー寮学校から招待状が届いた。俺は今だプリキュアに会えていない。世の中、いや、あの自称:偉い神様がクソである。居るんじゃないのかよ。存在するんじゃないのかよ。見たことないですけどプリキュア。プリティでキュアキュアな戦う女の子たちがいないんですけど。だから俺は考えた、この世界、ちょっと捻じれててデ〇ズニーの悪役メンツがやたら美化されている世界であった。そんな中で俺は考えた。考えに考え抜いて、明らかに悪役リスペクトしている学園ならプリキュアが登場するんじゃないかと踏んで、ナイトレイブンカレッジへ入学した。ちなみにイグニハイドである。


 結論としてプリキュアはこの二年間、俺の目の前に姿を現すことはなかった。勿論荒れた。だがしかし、夢で締め上げた自称:神の爺によればそろそろ!そろそろ現れるから!!と力説されたため、俺は大人しく荒ぶる拳を下げて日々を謳歌してる。プリキュアに貢ぐため、一年の頃からバイトしていたのでお金基(もとい)お布施はたまってるのだ。


 そして、本日 快晴。晴れ晴れとした日々を謳歌した記念すべき三年生になった今日(すでに一か月経過)。俺は運命的な出会いを果たした。


 一年生の教室から出てきた、腕に猫のような不思議な生き物を抱いた女の子。そう、女の子!!頭の中で祝福の鐘の音と歓喜に舞う天使が勝利のファンファーレを響かせる。え、プリキュアじゃん???


 腕に抱くその猫のような生き物はもしかしなくても精霊ですね!!??伝説の戦士プリキュアを誕生させる、妖精の国(ドラコニアは関係ないものとする)から来た妖精さんですね!!?俺氏大勝利では????


 大興奮する俺に、横にいたレオナパイセンが隠そうともせず、めんどくさそうにこちらを見下ろしているが知ったことではない。ところで先輩今年も留年したって草ですねっていったら無言で頭を掴まれた。くそ痛い。俺はか弱いイグニハイド生なので物理に出るのはどうかと思います。プリキュアはそんなことしないもん。お返しですよ〜と笑いながら目についた尻尾を引っ張ると鬼の形相で地獄の鬼ごっこがスタートした。鬼だけに。笑うわ。



 ……そう、ただ笑ってたはずだったんだけどなぁ。レオナパイセン(笑)から逃げきった俺は俺という人生史上、一番のピンチに陥っていた。よくわからない魔物に追いかけられております、たすけて。というかマジで学園のセキュリティガバのガバだな!?仕事してくれよ学園長!!不審者が出てきたと思ったら「気に入ったぞお前!アジトに連れて行って俺たちの仲間にしてくれる!」とか言いながら魔物を召喚された俺の気持ちがわかるのかよ!誰だよお前!!いきなり出てきてそんなこと言われても困惑しかねぇわ!!吊るすぞ!!??(困惑)




「ッあ…!」




 校庭に転がっていた箒に足を取られて芝生の上に倒れ込む。誰だよこんなところに箒放置した奴!!ドサッと我ながらなかなかに痛々しい音をさせながら倒れた。そこから少し遅れて、俺の上に影差し掛かる。いやな予感に、恐る恐ると顔を上げれば、俺を追いかけていた魔物がすぐ近くにいて、その後ろからは不審者が唇に笑みを浮かべながらこちらを見下ろしている。勝てる気はしない。けれど何もしないよりはマシだと思って、マジカルペンに手を伸ばし、魔物から目を離さずにその行動を注視した時、ふと気づく。

……って、あれ…。この魔物なんか、簡易的なデザインな気が…




「クロキ先輩から離れろジャマンナー!!」




 もう少し良く見ようかとちょっと身体を起こした瞬間、魔物が身体をくの字に曲げて飛んでいった。




「えっ…」




 えっ…??


タタンッ


 困惑した俺の様子を気にもしないような軽やかなヒールの音が響き、俺の前に赤と白を基調としたフリルたっぷりな服を身に纏う少女が躍り出る。深紅の長い髪をサイドテールに結び、先がくるんとウェーブが掛かっていて、スカートは短めで肩に薔薇のブローチ。そこから流れるように背中を覆うマントが風にひらめいた。




「大丈夫ですか!?ケガは…」
「え、いや、大丈夫だが…」
「よかった…」




 不意にこちらに向かって視線を投げたその美少女が俺の手を取って立ち上がらせると、ふんわりと笑みを浮かべる。えっ、あっ、まって、え、ぷ、ぷいきゅあだぁぁああああ〜〜〜〜!!???(心の中の幼女先輩大興奮)え、俺今プリキュアに手を握ってもらってる…???アッ、アッ、死にそう。俺今死んでもいい…




「クイーンっ!!飛び出してどうし…、って、フェイ君!?」
「えっ、増えた…」




 しかも認知されてる、なんで…??ひぇっ、と息を飲みながら上から降ってきたリ、走ってきたりで増えた総勢五人の女の子たちを眺める。え、皆美人過ぎてびっくりする。さすがプリキュア。五人組のプリキュアなんですね。赤系統が二人いる気がするけどそういうのも素敵だと思います。俺が俺を助けてくれた子に手を握られながら「はわわ」としていると、不審者が怒鳴り出した




「貴様っ…!プリキュアかっ…!!そいつを渡せ!そいつは俺たちの仲間になる素質がある!!」
「仲間だって…!?」
「聞き逃せない言葉だな。クイーン」
「わかっている。クロキ先輩、どうか物陰に隠れていてください。ボクたちでどうにかします」
「で、でも」
「大丈夫です、貴方のことを守らせてください」




 すごい、ときめく。ドキドキと高鳴る胸を押さえつつ、クイーンと呼ばれたプリキュアに導かれるまま、壁の後ろに案内された。ちょっと良い匂いする。本物だ、本物の…、俺が待ち望んだプリキュアだ…!!ところでさっきから口を開く子たちなんか言葉遣い凛々しくない…?プリキュア名『クイーン』さんも良い所のお坊ちゃんみたいな口調だった。ボクッ子も大歓迎です。ハトプリ(ハートキャッチプリキュア)で履修しました!!




「くそっ、貴様らを倒してあの男を連れ帰ってくれよう!」
「おや、良く回る口だね。すぐに閉じてもらおうか。お前たち!」
「「「「はい!クイーン!!」」」」




 ザッと彼らがクイーンを囲む様に並ぶと夢にまで見たあの光景が広がった。そう、プリキュアなら戦う前に絶対に行う、変身後または戦闘前の決め台詞。ちなみにプリキュアは決め台詞決めないと戦えないし、決め台詞を吐いているときに敵は攻撃できない。だってお約束だもんね!!




「遵守(じゅんしゅ)すべき、女王の法律!キュアクイーン!」
「薔薇を塗る、誇り高き兵!キュアクローバー!」
「薔薇を覆う、舞い散る手札!キュアダイヤ!」
「風を起こす、真っ赤な心!キュアハート!」
「風を止める、誠実な心!キュアスペード!」




 ドキンドキンと胸が高鳴り出す。存在したプリキュアに俺は興奮しっぱなしだった。さあ早く君らのチーム名を教えてくれ…。期待に胸を押さえ、食い入るように見つめていれば、彼女たちは声を揃えて言い放つ




「「「「「ハーツラビュルプリキュア!!!」」」」
「は?」




思わずスンッと真顔になった。

 聞き間違いだろうか、今。『ハーツラビュル』って聞こえたな…???チーム名がハーツラビュルってどういう…。アレアレアレェ?と首を傾げながら、取り合えず聞かなかったことにして心のペンライトを振り、プリキュアを応援した。が、次の瞬間魔物と戦うハーツラビュルプリキュアと別の方向、具体的に言えば不審者がいた空の方でドエライ爆発音が聞こえた。




「おい、ハーツラビュル共。人の獲物を狩ってんじゃねぇよ」
「シシシッ、ルール違反が嫌いなアンタらがわざわざ範囲外の敵を倒すなんて、一体どんな理由があったんスかぁ?」
「先輩方、それよりも目の前の敵をぶっ飛ばしましょう」




 露出度の高い、どこか野性味を感じる服に身を包む褐色の美女と小柄な美少女。白銀の髪を風になびかせた三人の女の子たちが屋根の上からこちらを見下ろしていた。プリキュアというよりセーラー〇ーンに出てきたスターライツという戦士たちに似ていると思う。いや、あそこまで露出は激しくないな。近いけど。というか、良く見れば彼女たちの格好、サバナクローそっくりな気が…。うんうんと悩みつつ、俺が頭を抱えてしっくりくる言葉を探していれば、彼女たちが覚悟を決めた様に顔を上げる。なぜ、そんなに死にそうな顔なんだ…??




「かったるいが決まりなもんでな。自己紹介でもしてやるよ。おい一年、お前からやれ」
「お、俺ですか…!?」
「ウルフくぅーん、ばっちり決めちゃってくださいっス。シシシッ」
「何言ってんだ。お前もだ」
「俺もっスか!?」




 …すごく、男らしい口調ですね…??ひょこっと顔を出しながら彼女たちを眺める。ピコピコと揺れる耳、ケモミミプリキュアだ。アラモード※(キラキラ☆プリキュアアラモード)のオマージュですか??あのプリキュアシリーズもすごく好きでした。でもやっぱり初代が不動という気持ちがある…。勿論現実逃避だ。


 俺は死んだ目をしながら「ははっ」と乾いたように笑いを零す。ああ、うん、なんか、見えた気がする。この場から逃げ出したい。この記憶を消したい。そう思いながらも俺の目線は決め台詞を述べ始めたプリキュアたちに釘付けだ。脳内で自称神である爺が「てへぺろでもプリキュアじゃろう?」と言い捨てた。吊るされたいんか爺




「月夜に轟く狼の遠吠え、キュアウルフ!」
「行進する愚者の嘆き、キュアマダラ…っス!」
「明日を救う、王者の咆哮、キュアレオン」


「「「不屈の精神を抱け!サバナクロー!プリキュア!!」」」


「くそっ!次から次へと増えるっ…!ジャマンナ―!!!」
「ジャマンナァアアアアーーーー!!




 えッ、目が行くところそこなんだ。咆哮する敵キャラ達()を見上げて思った。いろいろショックが溶けて正常に動き出した俺の脳はおそらく正解に近いであろう答えをはじき出す。いや、俺が全力で目を背けていた現実を、俺は受け入れ始めた。


―――あ、俺の求めてたプリキュアじゃないわ、コレ


 俺の求めるプリキュア。それは十代の少女たちが変身し、成長しながら悪を倒していく物語である。そう、『十代の少女たち』が。

 正直ハーツラビュルだけなら俺だって気づかなかっただろう。違和感を覚えつつも全力でペンライトを振りながらお布施でもした。でもサバナはもう駄目だ、もろだから。なんで種族ばらすんだよ。なんで耳と尻尾を消さなかったんだ。ライオンの獣人なんて一人しかいねぇよ!!
 
 そうだよな!ここ男子校だもんな!!プリキュアと言え女の子が存在するわけないよな!!女の子一人だけだもん!!中身男だなお前ら!!??何なら結構良く話すメンツだな!!??




「っち、メンドクセェ。おいお前ら離れろ」
「なっ、それはこちらのセリフです!お前たち、あのジャマンナーを倒すよ!」
「ユニーク魔法で消す」




実は隠す気ないなお前???あれ、プリキュアって正体知られちゃダメなんじゃァ…。


 舌打ちしたのはライオンの耳を不機嫌そうに動かし、露出度の高いサバナクローをモチーフにしたであろう服に身を包んで、オレンジ色の髪を風に靡かせるレオンと呼ばれた、多分中身レオナパイセンのプリキュア()惜しげもなく晒された生足を力強く地面に叩きつける。男の子として視線のいく生足は大変麗しい。


 ……どういう気分なんだろう。女体化してプリキュアになる気持ちって。あの姿からは恥を感じない。それだけ変身しているということだろうか。正直考えたくない。俺の知ってるプリキュアはあんなにあくどい顔しない。


 そもそも中身男の時点でプリキュアとは認められなーーーー、いたな男のプリキュア。いや、でも彼は別に女体化はしてなかったし…。俺もアレは正直ビビったが、まあ、公式が言うならと納得もした。でもお前ら絶対プリキュアはダメだろ!!伝説の戦士であり正義の味方がプリキュアだ。どうしてもアイツらが悪役側にしか見えない…。いやでも変身してる姿プリキュア…。いやでも中身…。はっ…!!!


監督生ちゃん、オンボロ寮の監督生ちゃんは!!??あの子も妖精さんと行動していたはずだし、プリキュア、もしくは時期にプリキュアとなる存在のはずだ!


後ろで聞こえる敵キャラ()の悲鳴と「キングス…」「オフ・ウィズ…」を無視しつつ、俺はオンボロ寮に走った




―――オンボロ寮―――

「へ?グリムですか?グリムは魔獣ですよ」
「え、魔獣…?」
「はい。というかいきなりどうしたんですか?」




グリムが何かしました?そう言った彼女は机の上でだらけているグリムの頬をひっぱり、事情聴取しようとする。いや、本当に彼は何もしていないのだけれど…。けれど俺の胸の内は全力で駄々を捏ね始めた






 なあ、教えてくれよプリキュア。なんで男のお前らがプリキュアなんだよ!!??









prev / next
目次に戻る








夢置き場///トップページ
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -