短編集/男主 | ナノ


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「やっちまったぁぁあああああああ!!!!」
「ひーーっwwwww何してるんですかカイ氏ぃwwwwwwwwwwwww」
「うっせぇな草生やしてんじゃねえよ!!あああああああっ!!どうしようどうしよう!!オレホモじゃん!!!」




―――ああああああああっ!!



まるでこの世の終わりだと言わんばかりの悲鳴だった。そんな彼を部屋に招き入れた張本人であるイデアがニマニマと口元を緩め、布団をかぶって団子になったカイ・レッパラートをつつく。人の不幸は蜜の味だとその表情が語っていた




「リア充になるチャンスがっ!!」
「傑作でしたなあwwwwテンパって男が好きと宣言した時は腹がよじれるかと思いましたぞwwwwwww」




横でヒーッヒーッwwwwwと大量の草を生やしながら笑い転げる親友を睨み、彼は布団を跳ね飛ばした。ちなみに彼の告白(嘘)を聞いた監督生はと言えば、その瞳を決意に燃やし言い放つ




『私っ!男になりますっ!!』




辞めてくれ切実に。このむさくるしい男子校に咲く一輪の花が男にならないでくれと引き留めれるなら引き留めたかった。しかし、先ほど男が好きだと公言した彼にその権利はあるだろうか。もちろんない。颯爽と駆け出して行った監督生はひらりとスカートを揺らめかせその場を後にしたのだ。後悔しても遅かった。

儚げに涙を散らしながら走り去る様子には形容しがたいものがあり、簡単に言えば似合っていた。美少女は何をしても可愛らしいのだなと頭の中で考え、正気に戻った彼は発狂した。



―――やっちまったと。



実はこの男、女が好きである、ただ自分がまさか学園の紅一点に告白されるとは露とも思わず慌てて出てきたのが冒頭の言葉、彼は泣いた。

さめざめと涙を流す親友にイデアもさすがに憐れむ。腐ってもイグニハイド。お外で生きている人間とお話ができるだけでその日は宴、よくやった。これで俺らも陽キャに一歩近づいたなと見当違いの喜び方をするイグニハイド生が果たして女の子に告白されて平然としていられるだろうか。否。答えは断じて否だ。



―――ちなみに監督生に告白されたと知ったイグニハイド寮全体が行ったことはカイ・レッパラートの生存確認であった。やらかして首を吊ってはいないだろうな。己の妄想乙自分キモいわ死のうなんて考えてないよな、いやいや、自分の発言に死んでるに違いない。などなど、結構本気で心配した彼らは部屋を覗いた。

カイ・レッパラートは今のところ確かに生きていた。呼吸もしていたしバイタルも正常。ただしお気に入りの抱き枕(キラキラ☆女の子はお姫様なんだから!!のキャラ『アエリルちゃん』・保存用)に抱き着いてオンオンと悔し涙やら血涙やらを流しぎゅうぎゅうと抱きしめる。寮生全員で止めた。やめろ!!それは限定品で二つしか手に入らなかったんだろ!?抱きしめるなら実用用にしておけ!!お前が抱いているのは保存用だぞレッパラート!!!

こんな時も限定品だと即座に判断できるのはイグニハイド寮生だけだろう。日常生活において何の役もたたぬ能力であるとは誰も言わなかったし、そもそも言う他寮の友人もいなかった。


さて、そんなこんなで授業に出れるまでに回復した彼は泣き腫らした目を擦りながら廊下を歩く。今日も学園のみんなは元気だなあなんて他人事に思って扉に手を伸ばす。




「あっれぇ〜?ヤドカリちゃんだ〜ぎゅ〜しよぎゅ〜」
「えー、オレそんな気分じゃないんだけど、ほらぎゅ〜」
「わ〜い!」




ぎゅ〜と抱き返しながらカイ・レッパラートは突然声をかけてきた後輩、フロイド・リーチと抱擁を交わし、その大きな背中をゆっくりと撫でて、じゃあオレ今から魔法史だからと離れる。けれどそれを笑顔でフロイドは止め、己より背丈の低い彼を見下ろすと問いかけた




「ヤドカリちゃん小エビちゃん振ったって本当?」
「まさかオレ如きが紅一点に告白されるなんて思わなかったんだ!!」




思った以上に元気な反論が返ってきた。何ならどこか必死である、そんな様子を見つめ、驚いたようにフロイドはさらに質問を投げかけた




「え、じゃあオスが好きってのも本当なんだ」




次の言葉が出て来ない。もうすでに学年も寮も違う彼の元まで噂が届いているのか、そう考えカイ・レッパラートはピシっと石像のように固まる。フロイドは何かを考えると固まる彼の薄い腹を少し撫でて、笑った




「じゃあメスになっても問題ないね!!」
「問題しかねぇわ!!!」




ふざけんな!!おっそろしい、どっからそんな発想が出るんだよこれだからリーチはっ…!!!!

近くで聞いていたジェイドが思わぬ飛び火に壁に追突した。




「え〜っ、でもヤドカリちゃん男が好きなんでしょぉ〜」
「情けない声を出すな!!男だから全員好きとかじゃないんだよ!俺は金と権力と顔のいい男がっ!」
「俺か?」
「どっから湧いた!?」




肩に置かれた掌と上から降ってくる声に思わず返す。こげ茶色の髪が風に揺れ、翡翠のように澄んだ瞳が楽し気に揺れる。
その人物にフロイドもカイ・レッパラートとも見覚えがある。色々あって先輩から同学年になってしまったレオナ・キングスカラーその人だ(フロイドからしたらまだ先輩だが)




「そりゃあお前、なんか面白そうなことが起こってるなと思ってなあ」
「野次馬っ!!質の悪い野次馬っ!!」




馬鹿野郎、俺は品のいい野次馬だ。見当違いな言葉にカイは「うるせぇ!」と叫ぶ、近くで聞いていたイグニハイド生は泡を吹いて倒れた。このカイ・レッパラート、皆様お気づきであろうが結構な頻度でやらかすイグニハイドの問題児だ。それに加えてとんでもない阿呆でもある。

ゆるゆると自分の腰を這う手を叩き落し、キャンキャンと言葉を返す姿はまさに仔犬。先ほどまで腰に触れていた手を眺め、レオナ・キングスカラーはポツリとつぶやく




「ぶっ壊しそうだな」
「わかる。細いよね」




思わぬ同意に彼らは頷き合った。ヤるときは丁寧に溶かしてやらないと。そんな会話を聞かず、さっさと教室へと滑り込んだカイ・レッパラートは頭を抱え込んだ



―――監督生ちゃんが男になったらどうしよう



男子校に咲く一輪の可憐な花。それが一気に萎れる様子を想像して彼は突っ伏した。






























後日



「先輩!男になってきました!付き合ってください!!」
「dfgk;:うぇrちゅおp@cvbんm!!!!!!???」




輝かんばかりの微笑みを浮かべた美少年にカイ・レッパラートは泡を吹いて倒れ、親友であるイデアは再び腹を抱えて笑った。






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