短編集/男主 | ナノ


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「……え、リドル先輩オバブロしてないんですか。ワロタ」
「お前は一々失礼な物言いしかできねぇのか。まあ前回バブった日から1か月たってるんだよな」
「次はキングスカラー先輩ですねバブるんですか?」
「喰われたいなら早く言え。遠慮なんざしねえから」
「え、いきなり人食宣言してきたんですけど、こわ…」




それにしても不思議ですよねぇ。ともらった紙パックジュースを開けつつ首をかしげる。ちなみに俺がこの1か月関わりを持ったのはキングスカラー先輩だけである。そもそも雑用係は生徒が授業している間に学園内の掃除を行っているので、必然的に生徒と顔を会わせること自体が珍しい。生徒が休み時間の時は俺も雑用係専門の部屋でだらけている。ちなみに雑用係は俺だけだ。

たまにキングスカラー先輩が入り浸りに来るが、休み時間が終われば自分からふらりとどこかに行く。もっしゃもっしゃと学園買いのベーカリーで購入したパンを頬張りつつ、ラギー先輩らへんに買いに行かせたであろう昼食に被りつく先輩を見た




「ラギー先輩覚えてないんですか?」
「ラギーもジャックも覚えてねえよ。ああでも」
「?」
「寮長会議の時カリムがお前のこと聞いて回ってたぜ。そう言えばあんときリドルの奴も反応していたな。覚えてる可能性あるわ」
「それいつの話ですか」
「ひと月前だ」
「もっと早く言えよ使えないですね!!!??」
「あ“?」




あ、待ってごめんなさい!噛まないで!!ほっぺたを噛むな!!!!!



次、生意気なことを言ってみろ、頭から足の先まで食い潰してやるからなと殺意と本気を交えながら俺を脅したキングスカラー先輩は授業に戻っていった。頬っぺたどころか首筋やら手首やらに歯型を残されて痛い。ひどすぎる。本人はなにやらすっきりとしたようだが、俺は体のそこらかしこが痛いのでこの恨みをいつか晴らそう。


痛みの残る頬をさすりながら、廊下を歩く。一回目と変わらない廊下だし、なんならこの1か月ずっと見てきた廊下だ。ひと月。緑川の監督生になるという宣言からひと月。オーバーブロットの起きない平和な学園生活は彼女の中で不満らしい。共同スペースで顔を合わせればいつも「イレギュラーのあんたがいるからだわ」と愚痴をこぼすのだ。俺的には君がイレギュラーなんだけどね?

あははと乾いた笑いを零しつつ、グリムが早く風呂から上がって来ねぇかなと外を見る。

グリムが起きてるとき、彼女は猫をかぶってこの共同スペースでも生活してくれるので、意外とグリムも役に立つのだ。まさかグリムを望む日が来るとは思わなかった。

当のグリムは厳しいことを言う俺よりも甘やかしてくれる緑川の方が好きみたいなので、基本的には緑川と行動を共にしている。そしてグリムが自分についているから私が主人公よ!と高らかに宣言した彼女は痛かった。元の世界にいた姉を見ている気分になった。

元の世界にいた姉は基本的に気前はいいのだが俗にいう夢女腐女子で、夢小説を大学ノートに書きだしては楽しそうにしていたのを思い出す。その夢小説の内容はレパートリー豊富で、某サッカー漫画とか某海賊漫画とか某イタリアン系マフィアとか…。特別な化身、最強みたいな悪魔の実、虹の守護者とか雪の守護者とかいうパワーワードに俺は読むのをやめた。

姉のノートは痛かった。涙が出るくらいにはいたかった。でも俺も某艦隊娘で似たようなことネットでやってた。お相子だった。姉の大学ノートは数十冊に上り小学四年生から大学卒業まで続いていたと記憶している。姉は大学の途中から祖母の家に住み始めたのでそのあとも書いていたのかはわからない。でもpi〇ivで姉の作品がランキングに入っているという妹の報告を聞くたびに俺はいたたまれなくなった。


だからこそ緑川の言動に頭を痛めつつも慣れていた。姉の夢小説の主人公に比べればマシだった。別に一人称は「俺」とか「僕」じゃないし。度の過ぎた天然でもない。何なら体重30キロ台なのにプロポーションしっかりしてるとかいう謎現象も起こっていないのだからマシだった。


今考えると俺もあの大学ノート読み込んでたんだな。姉には俺の好きなエロ的シチュエーションがすべてバレていたことを思い出し、やっぱりお相子だなと今だ再会できていない姉に想いを馳せつつ、廊下を歩く。皆様お忘れだろう回想だぞこれ。




「見つけたっ!!」
「え!?」




突然、肩を掴まれて無理やり後ろを振り向かされれば、どこか嬉しそうな顔をしたローズハート先輩の姿に、そういえばと思い出した




「君を探していたんだっ、良かった、生きてーーー」
「先輩バブらなくてよかったんですか?」
「首を跳ねられたいのなら最初っからそういえばいい」




僕に遠慮する必要はないんだ。そう言ってチラチラと見せつけられる赤色の石に思わず土下座した。目がマジだった。俺にソレは効かないのに物理的に首を跳ねられそうだと感じてしまう。




「まったく、こういう状況だというのに君は…」
「欲を言えばローズハート先輩が前のローズハート先輩とかじゃなくてトレイ先輩が覚えていてくれた方がっ…!!」
「【首を跳ねろ/オフ・ウィズ・ユアヘッド】!!!!!」




ガチンと嵌った首輪にやっちまったぜと思わず舌を出せば、ローズハート先輩の細い指がすかさず舌を掴む。そのままぐぃいいーっと力を込めながら、俺と目を合わせた。額にはばっちり青筋が浮かんでいるのが怖い




「き、み、は!なんでそう減らず口なんだ!!ぺらぺらと動く舌は切り取ってしまおうか!?」
「!!!!!」
「…はぁ、…まったく。元気なのは良い事だけどね」




パッと解放された舌を口の中に仕舞い込んで、レオナ先輩の言う通り記憶が本当にあるんだなと考える。ここまで行くと寮長全員覚えてそうだ。アルアジーム先輩が俺のことを聞いて回っていたとキングスカラー先輩は言っていた




「ローズハート先輩」
「くだらないことを言えばまた舌を引っ張るよ」
「それはやめてください。言葉は俺に許された自衛手段ですよ!!!…まあ、さっそく本題なんですけど先輩たちってどれくらいが一回目のこと覚えてるんですか」
「自衛手段って君ねえ…、…質問の答えだけど寮長は僕とキングスカラー先輩以外は覚えていないだろう」
「え、アルアジーム先輩は…」
「覚えていないよ。覚えているのはジャミルの方だ。ただ、それ以外の者たちは誰一人覚えていない。」
「た、頼りになりそうなのがバイパー先輩しかいない事実…!!!」
「本当に失礼すぎるね君は!!!」
「じゃあ先輩は料理とか家事とかできるんですか!?」
「う“っ」




ほら見ろ詰みじゃん!!!




ぼ、ぼくだってやろうと思えば…と口ごもるローズハート先輩は放置だ。俺は今を見たい。現実を見るんだ俺。有事の際にはとりあえずバイパー先輩を頼ろう。キングスカラー先輩の傍に記憶持ちのラギー先輩が居れば完璧だったけどいないのならしょうがない。そもそもあの人、俺をラギー先輩に会わせる気ないし。あ、そういえば




「ローズハート先輩」
「何だい」
「グリムってどうなりました」
「そこは僕も知らない」
「使えないっ!!!!」




外れかかっていた首輪がもう一度ガチリと音を立てて嵌ったのを感じ、またやっちまったなと俺は現実逃避した。いや、だって相棒のこと知りたかったんだもんーーー!!!








































「あいつ、また原作キャラとっ…!!!」


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