短編集/男主 | ナノ


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翌日、緑川とグリムが二人で一人の生徒になっていた。朝一でどこか誇らしげにそう宣言した彼女に「そっかー」と返せば、彼女は次の瞬間には鬼の形相となる。グリムが起きていない時でよかったな




「何?そのうっすい反応。この私がわざわざ報告してあげてるのよ?あとアンタ、昨日レオナさんと一緒にいたでしょ?何を話してたわけ?」
「雑草と薬草の区別がつかなった」
「はっ、ばっかみたい。それだけの理由でレオナさんの手を煩わせないでよ」




昨日と性格が違う気がする。昨日は楽しくアニメの話に興じたはずなんだけどな???あと、俺は雑草と薬草の区別位つく。ただ何となく話すとメンドクサイなと思ったから嘘をついただけで、いやそもそも区別が付いたらおかしいだろ。一回目の俺なら間違いなく薬草引っこ抜いていた。マンドラゴラ引いたら死んでたわ。ありがとう一回目の俺。ちゃんと勉強していて偉いぞ。

思考を過去へ飛ばしている間にグリムが起きてきたらしく、甲斐甲斐しく世話を焼く緑川の表情は元に戻っていた。女って怖い。



―――学園長室―――


朝、緑川に聞かされた話を俺は学園長室で聞きながらへぇーと返す。どうでもよすぎて欠伸が…




「そこで!あなたにも学園に通う許可を」
「いらねぇっす」
「へっ!?」
「俺はこのまま雑用でいいですよ。生徒なんてメンドクサイ。ところで雑用係の給料っていくらですか?」




俺があっさりと投げ捨てたことに驚いたのか、クロウリー先生が「え、でも、でもですよ?」と近寄ってくる、それに再びいりませんと答えれば、顔をうつ向けた




「まさかと思いますけど、衣食住が対価なんて言いませんよね?人一人の食費なんて一か月多くても三万、光熱費足しても五万。五万が雑用対価なんて言いませんよね学園長」
「む、むむ、それは、確かに」
「手取り15万はほしいんですけど。一日中働くわけですし?本来の休日も働けっていうなら色付けてほしいですね」




無いなら警察にでもなんにでも行って、「手違いで呼び出されたのに、帰してもらえず追い出されましたと言いふらします」と言い放てば、手取り19万+@くらいの給料になった。契約ありがとうございま〜す。にっこにっこで懐にしまい込んでいた契約書(キングスカラー先輩に強請った)を差し出せば「なんで魔法紙なんてもってるんですか!」と叫ぶ。これに名前を書いて契約を結べばいいとドヤ顔でおしゃってたキングスカラー先輩マジで神。感謝感激あめあられって奴だな。


さて、無事に契約を結べた俺が契約書に書いた内容は、上記のことともう一つ。前回本当に困ったグリムの食費問題と、お小遣いである。正直に言えば遊びたい真っ盛りの10代にとって、あの監督生時代は地獄だった。遊べない、お金もない、衣食住を盾にやりたくもない雑用。理不尽極まりなかったと思う。正直教育者としてどうなんだろうこの人。

だからこそ契約書に項目を追加していた。「衣食住を盾にオンボロ寮の住人に対し、雑用を迫らない事、月に一度好きにできる金銭を監督生に渡すこと」以上である。朝は性格が嫌な女ぶっちぎりみたいだったけど、もしかしたら女の子の日だった可能性もあるし、気にしないようにする

ちなみにクロウリーは俺の契約書を詳しく見ずにサインした。サインさせてしまえばこっちのもの。俺は悪くない。

俺とクロウリーの分、2つの契約書にサインを行ってもらい、それぞれが保管する。これで後から付け加えただの騒げないだろう、内容は一緒だし。


ほくほく顔で今日の雑用内容を聞き、俺は箒と塵取りを荷台に乗せて歩き出した。キングスカラー先輩からもらった護身用の魔法石が首下で輝く。あの人、俺が寝ている間にいろいろ用意してくれてたみたいで有難い。使えないとか思ってごめんなさいキングスカラー先輩。すっごく使えますね先輩。


脳内のキングスカラー先輩先輩が忌々しそうな顔で「図太くなりやがって」と悪態をついた。図太くないと一回目は生きていけなかったのだからしょうがない。俺は図太いですよ先輩。


鼻歌交じりで廊下を歩きながら、楽し気に登校する監督生ちゃんたちを視界にいれた。昔は俺があのポジションだったんだよなと考える。大変じゃないと言えば嘘になるが、楽しくなかったと言っても嘘になる。けれどキングスカラー先輩以外は俺が一緒に過ごしてきた先輩でも、友人でもないのだ。

友人でもない彼らのために、俺はまた監督生をやろうとは露ほど思わなかった。いや、人としては好きなのだけれど、俺の友人という大事な存在は一回目の彼らである。


遠目で彼らを見ていた俺は少しだけゆるりと笑い、掃除をするべく廊下を駆けた














「―――、監督生…」
「どうしたの?」
「いや、何でもない」





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