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夏目side
「…」
「夏目ぇ〜痛いってば〜」
引きずるように人気のない廊下へと連れているとき後ろから少しだけ辛そうな声が聞こえてパッと腕を離しあわてて謝った
「ぜってぇー痣できた」
「あはは、ごめんネ」
こてんと首を傾げ笑う自分に彼は少しだけ恨みがましい目で見つめるがそのあと「しょうがないなぁ」というように微笑んで見せた
―――あぁ。ずるいヨ
ほんとにずるい。美しすぎる顔をもつ彼は自分の表情一つ一つがどんな印象を相手に与えるかわかっていない。それは昔からだった。いくら前三年の先輩たちが注意しても、奇人のメンツが注意しても彼はいつもそれをわからないように笑う
ホントはわかってるくせに。
「−−−結城にいさん」
「ん?」
「おかえりなさい」
僕たち五奇人が大切に守りたかった「帝王」
けれども守られなくても十分強かった「帝王」
―――守ることすら「おこがましい」
「ただいま、俺の愛し子」
ふっと目元を和らげて頭をなでる手にどうしようもなく泣きたくなったのは秘密だ
でも泣かないよ。
貴方は泣かれることをきらうからね
「次は遠くに俺を逃がすなよ?」
暗にお前らに守られるほど弱くないと言われている気がした
そしてお前らを守らせろとも聞こえた気がした
「うん、わかったヨ」
満足げに笑った彼の顔はやっぱり綺麗だネ
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