短編集/女主 | ナノ


▼ 3

ーー五条sideーー

 一回目 最初は興味なんてなかった。そこら辺にいる弱者と同じだと思ってた。でも、あまりにも、あまりにも俺を呼ぶ声が暖かかったから、気まぐれに手を伸ばして嵌った。
 
 二回目 アイツから避けられた。俺じゃだめだと思った。だから高校でアイツの前に姿を見せた時、自分を偽った。でも途中で自分以外を呼ぶ声に我慢が出来なくなった。

 三回目 怯えた目でこちらを見るその瞳にまた恋に落ちた。怯えた目で俺を見る癖に俺に手を上げるそいつに、ただ俺だけを怯えるように見るその目に、記憶もないくせに俺は魅せられた。

 四回目も、五回目も、六回目も、何度も何度もアイツが俺の手にかかって死ぬのをアイツが、東雲が死んでから思い出す。そしてそのたびに俺はまっさらな状態で小学校からやり直す。今度は、今度こそは失敗しないようにと、狂おしいほどに狂った愛(呪い)と執着をもって。

 88回目。なぜか記憶をもって俺はやり直していた。それは初めての体験だ。今まで俺が思い出すのは東雲が死んだときだけだったのに。けれどそれはチャンスだと思った。88回目の入学式。東雲は小学校にも中学校にも表れなかった。


 どういう事だと考える。生徒名簿には名前があった。なら存在するはずだ。それなのになぜいない。考える。考えて考えて考えて気づく。東雲はとうとう俺という個人、俺という、自分を殺す男に出合わないという選択肢を取ったのだ。それは俺に言わせれば遅すぎる選択だったし、何より今回は意味がなかった。なぜなら俺は覚えているのだから。

 そこから俺は色々な所に手を回した。東雲という人間の人生を狂わせる選択を俺は選んだ。だって仕方ないじゃないか。俺は東雲を愛している(呪っている)手に入れるまで何度も何度もやり直せるほどに大きな愛(呪い)を東雲にぶつけている。泣いても喚いても逃げられない鎖を何重にも巻いて巻いて巻いて。逃がさない、逃がすはずもない、逃がせるはずもない。

 かくして、俺の願いはかなった。東雲は『窓』として高専に入学した。でもここから本番だ。俺は東雲になるべく関わらないようにした。どうしても関わらなければいけない時でもあえてそっけない態度を取った。びくびくと肩を震わせる東雲に愛おしさを感じながら、何度も何度も何度も!

 そうすればほら、東雲は勝手に勘違いする。そして自分からこちら(俺の方)に足を踏み出して笑みを浮かべるのだ。なんて簡単なことだろう。俺が抱き締めても、俺が後頭部に口づけをしても、俺が東雲の傍にいても、東雲は俺を怖がらない。一週目のように無邪気な笑みを浮かべて嬉しそうに、親愛の感情を乗せて言うのだ「五条」と。


「五条。いこっか」


 取り付けたデートを、何の疑いも無く承諾して、俺に手を差し伸べてくる。その姿にうっそりと微笑んで俺はその手を取った


「東雲」
「ん?」
「ずっと一緒な。逃げたら地獄まで追いかけてやる」


 わずかに、東雲の頬が引き攣った、一瞬見せた恐怖の色。でもそれはほんの一瞬だった。すぐに東雲が笑う


「じゃあ、下手に死ねないね」
「は?何?死ぬ気だったの?」
「違う違う。死にたくないよ。今も昔も」


 長生きするよ。五条たちのサポートもあるし。やさしくそう囁いた東雲の顔にはもう恐怖の色もない。何回も何回も何回も俺の手にかかって死んでくれたくせに、その恐怖を忘れるのが早すぎだよ東雲。
 馬鹿なお前には俺が必要だね。手を放すなんて絶対に許してあげない。この手を離さないように見えない鎖で縛ってやるさ。今はまだこの距離で我慢するけれど、絶対に。絶対に逃がさないから。

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