短編集/女主 | ナノ


▼ 6

ー虎杖悠仁sideー


 幼馴染が好きだ。いつもつまらないと目を細めて、どこか遠くを見る、まるで俺に興味の無いような幼馴染が、俺は昔から好きだった。別に目を惹く美少女だとか、胸がデカいとか、そう言うわけじゃない。ただ、何かに焦がれるように太陽を見て、何かを耐えるように下を向く姿が昔から気になって仕方なかった。

 放っておけば、目を離してしまえば、アイツは、相川は消えてしまうんじゃないかって思った。だから毎朝声をかけたし、高校だって同じ場所を受けた。ただそれだけで満足で、ただそれだけで幸せで、嫌そうにしながらも俺を一瞥してくれるだけで今日も頑張ろうなんて思えた。

 今日、何気なく、いつものように、期待なんてせずにデートに誘ってみた。俺の中ではデートだけど、馬場の中でどうかなんてのは、わからない。ただ、一緒に出掛けることが出来ればな、なんて、少しの下心で誘ったのだ。断られる。わかっていた。それなのにそいつは、馬場は、少し考えた後、少しだけ、ほんの少しだけだけど口の端を上げていった。


ーー土曜日なら、開いてる。


 その言葉に俺がどれだけ舞い上がったかなんて、きっと知らない。ジャンプしても足りなくて、胸の奥から歓喜とか、そんな、言いようのない想いが込みあがってきて、早く今日が終われと、明日が終われと祈って。

 良い事があれば悪いこともあるといえばいいのか、その日、爺ちゃんがなくなった。肉親は俺だけだったから、これじゃあ土曜日の予定も無くなるな、なんて気落ちして、でも、また誘えばいいかと考えて、涙を拭ったら変なことに巻き込まれてーー、それで、それで…。東京に行くことになったと五条と名乗った担任に言われたから最後に伝えたい奴がいると、そう言った。



 そう、言ったのだ。謝るつもりで、土曜日行けなくなってごめんって、言うつもりで、ヘラリと笑った俺に、五条先生が難しい顔をして行った


ーーーその彼女、死んだよ。


 何を、言われているのかわからなかった。周りの音が一斉に消えて、顔を上げる。それに五条先生がこっち、と俺の手を取って何処かに連れて行く。



「せ、先生、死んだって…」
「屋上で、彼女、呪霊に身体の半分を喰われて死んでいたよ。間違いない。受け身を取ったのか腕と胸から腹にかけてね食いちぎられた跡があった」

 
 変死体はすべて行方不明として処理される。そう言った先生が連れてきたのは安置室だった、ひんやりとした空気が窓越しから洩れている。その扉が、音を立てて開くと、暗い部屋の中央。白い布をかけられた小柄な何か。不自然にへこんだ中央部。その近くに先生は俺を連れて行くと上の方の布を取った。


ーー相川、だった。


 青白く、血の気の引いたような顔で瞼を閉じている、唇は紫で、俺はその場に膝をついた。そんな俺の様子に、五条先生が口を開く


「今回の怪異の犠牲者は彼女だけだ。驚くほど被害は少ない。−−君は、そう思えないようだけれど」


 無慈悲な言葉だ。言い返えそうにも馬場が死んだという事実に脳が追い付かない。ふらふらと、何度見つめてもその遺体は馬場だった。彼女だった。俺が、俺が、俺が好きで好きで仕方なかった、相川美乃梨という、幼馴染だった。

 じわっと、涙が目尻に浮かんで、もう一度、良く見ようとしたとき、その遺体が光り出す。その光景に先生が俺の腕を掴んで遺体から引き剥がすと後ろへ下がらせるけれど俺は、そんな異常な光景を見て。ーーー奇跡だと思った。


 神様が俺に与えてくれたような奇跡だと、そう思った。そう確信した。

 遺体が光り輝き出し、やがて粒子になってはじけ飛ぶと、また光の粒が集まって新たな形を形成する。信じられない光景だ。あり得ない。と、五条先生が吐き捨てる。けれどそんなのどうでもいい。だって。光の粒が集まり、形成した形は傷一つない、相川だったから。台の上にあったような青白い、死人の顔じゃない。血色の良い肌色をした幼馴染。

 頭で考えるまでも無く、それが相川だと認識した俺は先生を押しのけて相川を抱きしめた。今なら神にだって、仏にだって何を捧げてもいい。


「んっ…。あ、れ?」


 先ほどまで目を閉じていた相川が俺の腕の中で目を開けると、どこか寝ぼけた様に声を上げた。先ほどまで、死んでいた彼女が!!


「相川ッ、あいかわぁっ…!」


 情けない声が口から洩れる。生きている感触を確かめるように、掻き抱いて、俺は涙を流した。何が起こったかわからないけど、良かった!生きてた…!腕の中で馬場が「虎杖…?」と俺を見上げる。それに「ああっ」と返せば、馬場の顔が徐々に赤くなる。どうしたんだろうか。そう思い彼女を見下し、見えたなだらかな曲線と柔らかそうな果実。血色の良い肌色に目が吸い寄せられーーー




「嫁入り前の乙女の裸をまじまじと見て抱きしめてんじゃねえよっ…!!!!」
「う”ぉ”っ…!!」
「おお、いいアッパーだね」



 顔を赤くした相川に殴り倒された。

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