短編集/女主 | ナノ


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 暖かな手の感覚。それに私は目を覚ました。いいや。覚ましはしたけれどけっして周りが見えているわけじゃない。口から洩れる意味のない言葉に理解する。どうやら私は赤ちゃんからスタートらしかった。「あー、あーぅ」と母音が己の耳に届き、ふふっと母親らしい女性の笑い声が聞こえた。


「可愛い。可愛い女の子ね。珠のように愛らしい子。おはよう美乃梨。」
「あー」


 驚いた。私の名前はこの生でも美乃梨らしい。前世でもそうだったが、随分珍しい漢字を使った名前だと記憶している。この親はどういう考えでこの名前にしたのだろう。見えないからこそ、手探り状態で手を伸ばした。そんな赤子の様子に女性の優しい声が降りかかる


「元気ね、美乃梨。可愛い子。さあ、もう少し寝ましょうね」


 ポンポンとリズムよく叩かれる背中に赤子故か瞼が重い。眠気に抗おうとしたが所詮赤子の身体だ。私は睡魔に負けて眠りについた






ーーー騙された。



 どうもこんにちは10歳になった美乃梨です。今日も元気にランドセル背負って【小学生】やってます。人生は糞。知ってた。
 そう、あれから十年。ようやく目が見えるようになった私は叫んだソレはもう思いっきり叫んだ。−−−私が転生したの、現代ジャン???え?どういうこと??神様、私を鬼滅の世界に転生させてくれるって言ったじゃん??盛大に混乱した。

ーーー煉獄さん救済は??肉壁になるという私の夢は??名前を覚えられずとも煉獄さんに声をかけてもらって目を合わせてもらって言葉を交わす私の夢は??

 グルグルとせわしなく駆け巡る思考。怒りに震える幼い身体。心配そうにこちらをのぞき込む今世の両親。そこで私は気づいたのだ。あの神。間違えやがった。と。
 それに気づいた私の絶望は計り知れない。転生特典である、『煉獄さんの肉壁になるまで死なない』ってやつ。アレも無効になったのだろう。だってここ煉獄さんが死ぬ時空じゃないもん!!ワンちゃんキメツ学園時空!!と望みもかけた。でもダメだった。なんでかって??横の幼馴染がもうアウトだったからだよ。

 過去の回想をしながら学校に繋がる道を哀愁背負って進んだ。そんな私の方に誰かが手を置く


「おはよう!相川!」
「…虎杖…。」
「おう!」


 にっかりとまるで太陽でもバックに背負ってるのかお前話と突っ込みたくなるような笑顔に私は無の境地に至っていた顔面筋をさらに殺した。おそらく目も死んでいる。そんな私の様子に虎杖が「大丈夫か?」なんて声かけながらのぞき込んだ。やめろ。今私心はお前の存在故絶望に叩き落されてんだよ。


「別に。いつものことだし」
「ん〜?そんなことないと思うけど…。なあ、なんかあったなら俺、相談に乗るよ?」
「あんたじゃ無理」
「わからないだろ!」


 わかるんだよバカ。あっちいけ。しっしっ。顔を顰めて腕を払うような動作をして見せれば虎杖は頬を膨らませる。そう言う顔は姉が好きだったろうなと他人事のように考えながらランドセルを背負い直した。そう、虎杖。虎杖悠仁。私が転生したかった鬼滅の刃とは違う世界の【主人公】。
 お隣さんだと彼が紹介された幼稚園の頃、私は本格的に神を恨んだ。話が違うと。さぞかし死んだ目をしていたであろう私に幼い彼は近づくと、やはり邪気のない笑顔で微笑み、手を差し伸べたのだ。勿論、その手を素直に取ったかと言えば違う。親に無理矢理握手させられた。無念。

ガシッ


「へっ?」
「ま、そんなことより、学校まで走るぞ相川!」
「は、あ?ヤダよ!だって余裕あるじゃん!」
「子供は風の子ーー!!」
「やだってばぁぁぁあああ!!」


 過去に想いを馳せて遠くを見てた時、虎杖が私の腕を掴み、そう言うと走り出した。子供とは思えない速さで、私はもはや引き摺られていたと思う。あああ…。本来なら煉獄さんのことを想って修行をしていたはずなのに、どうしてこんなことになったのか。コレもそれもすべてあのいい加減な神のせいに決まっていて、私は再び、心の中で神を罵倒した。

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