短編集/女主 | ナノ


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 グリム達がやらかした。思わず遠くを見つめ、イソギンチャクの生えた彼らから目をそらす。またグリムなのか、珍しく勉強をしていたと思えば一夜漬け。いやな予感はしていたのだ。あのグリムが勉強をする?エースとデュースがテスト後に活き活きしてる??考えればおかしい事なんていくらでもあった。


 ズキズキと痛む頭を押さえて、ジャックと共に彼らの後を追う。正直見捨ててやろうかなって思ったけど、ジャックが行くなら仕方ない。行こう。


 イソギンチャクを頭に生やした生徒たちの群れについて行けば、それぞれの寮へと繋がる鏡の間へとたどり着いた。既に彼女の目は死んでる。なんでこんなにイソギンチャク生やした野郎どもがいるんだよ。


 仏の顔も三度まで。自分は別に仏様じゃないけれど、グリムに対しては烈火の如く怒り散らしても罰は当たらないと思ってる。そんな気持ちを胸に秘め、彼女はオクタヴィネル寮へと通じる鏡を通った。



 ―――そしたらまあ、案の定というか予想通りというか…。見事に面倒ごとを持ってきたのはグリム(とエーデュース)で、彼女の沸点が噴き出すギリギリまで湧き上がる。落ち着くんだ自分。いくら相棒(と言ってももはや害悪)がやらかしたからと言って自分もやけになっちゃだめだ。前の世界でも怒り散らした末に、いろいろ失敗しているんだからと自分に言い聞かせる。そして彼女はテーブルを挟んだ目の前で、にこやかに座るオクタヴィネルの三人組を見た


すぅっと息を吸い込むことで冷静さを取り戻し、オンボロ寮を担保にと契約書を掲げる男たちを目にとめる




「オンボロ寮を、担保に、ですか」
「ええ。そうです、クリア条件は三日後の日没まで写真を持ってくること、簡単でしょう?」




 簡単じゃあ無いですね。出掛かった言葉を飲み込んで、笑みを浮かべつつ「なるほど」と返す。何がなるほど何だろう。自分でやった行動なのに意味が分からないよ。


 (内心で)困惑する監督生を横目に、アズールはふと首を傾げた。なぜ、取り乱していないのだろうかと。この契約は言ってはアレだが彼女に不利、得も何もない状態のはず。だというのに目の前の監督生は穏やかにニコニコと微笑んで、こちらの出方をうかがっているようにすら思えた



―――なぜだろう、彼の目には微笑んでいる監督生が不気味に見えるのだ。




「先輩」




 不意に、監督生がアズールに声をかけた。何か仕掛けてくるつもりだろうかと身構えながら、平静を装って「何です?」と言葉を返せば、彼女はやはりにっこりと笑って言った




「先輩方の現在の部屋の写真を私に下さい。そうすれば契約しましょう」
「は?」




 なんで部屋の写真なんだ。呪いでも送るつもりかと、断わるために口を開きかけ、そしてふと思い出す。目の前の監督生には魔力がない。ならば呪いなど送れないだろう。ふぅっと、落ち着きを取り戻し、彼女の後ろで「何考えてるんだ!?」とか「やったー!助かんるだゾ!」と騒ぐイソギンチャク+@を見つめ、いいでしょうと頷く。


 後ろにいたフロイドに写真を撮って焼き増しまでしてくるように言いつける。酷く面倒くさそうに顔を顰めながらも、彼ははいはいと返事をして自室のある方へ駆けて行った。














――――契約書にサインするその時まで、彼女はずっと穏やかな笑みを浮かべており、それに違和感を覚えながらも、アズールは契約を交わし、その書類を複雑な面持ちで見つめ、緊張で強張っていた肩を下ろしたのだ。




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