短編集/女主 | ナノ


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私はダメな女だ。仕事では頼りになる存在だと人は言う。けれどそれは猫をかぶった自分で、家に帰り、プライベート空間に足を一歩でも一ミリでも踏み込めばもう駄目。人の目があっても気にせず、ふっと肩の力が抜けて気力も何もかもなくなってしまうんだ。ふらふらとした足取りでバッグを玄関に落とし、自室のベッドにダイブした。




「あ〜〜〜〜、つっかれたぁぁあああ〜〜〜」




メイクは銭湯で落としてきたし、髪も適当に一つ結び。スーツにしわが寄ることすら気にせず、そこらへんに置いてあるスマホへと手を伸ばした。ブブッとスマホが揺れてメッセージが浮かび上がる。同棲している彼氏からのもので、【スーツを脱いでくつろぐように】とまるで見透かしたかのような文。しかしめんどくさかったため既読すらつけずにそのままゲーム画面を開く。やだわ、今日も推しがカッコいい。きらきらとした金髪の髪に紅の瞳。若い頃は傲傲慢王と呼ばれたが今では賢王と名を馳せ、プレイヤーに王としての生き様を見せつけた私の推し。




「ふぁぁああ、かっこいいよおお」




枕に顔を押し付けて悶えながら呻くように言葉を零せば、私の手からするりとスマホが抜き取られる。ふんわり香る甘い匂いに顔を上げれば、頬を膨らませた彼氏様がこちらを見下ろしていた。




「あ・お・い?」
「スマホ返して」
「スーツは脱いでって言っただろう。それもせずにゲームばかりして…。それに顔が近かっただろう。目が悪くなるぞ」
「王様見て目が悪くなるなら本望、返して、炭治郎」
「ダメだ!夕飯まで没収」




今度はこちらが頬を含ませる番だった。意地悪。すぐにポケットからスマホを取り出してストッキングを脱ぐ。そのままスーツを投げ捨てれば炭治郎が顔を顰めながらもそれを拾う。ハンガーにスーツをかけて箪笥からワンピースを引っ張り出すとこちらへ放る。乾いた音が頭上で響き、身体を覆った




「まだ寒いんだからちゃんと着るんだぞ。俺は夕飯を準備してくるから」
「はぁい」
「まったく。」




少しだけ困ったやつだなと言うようにため息を吐いて炭治郎がキッチンへと移動していく。本当にかわいくない性格だな私。そう思いつつ、スマホへと目を向ける。あんな短時間で引継ぎができるわけもなく、画面に映るのは所詮悪役令嬢物といわれる呼ばれる小説物で、最近では似たような流れのものが多い気はするけれど私はこういう系が好きだ。そんな中。ふと見える広告を誤って押してしまう。パッと開いたページには【彼氏と破局する8の理由】と書かれた項目。なんとなくそのページを目で追いながらあくびをかみしめた。そういえば昔、炭治郎と付き合う前に付き合っていた彼氏達との別れた理由は何だっただろうか。なんかめんどくさくて別れた気がする。そんな中でも破局した理由(といっても自分で探そうともしなかったが)なんて考えたこともなかったな。別れはいつも彼氏だったし、属にいう男女の仲になるまでに分かれたおかげで私の処女は炭治郎の手によって散らされたわけだが。まあ、処女も20までには散ったのでいいだろう。

台所から何かを炒める音がして、ふんわりとした醤油の香りに漠然とこのままでいいのだろうかと理性が問いかけた。


























【β】である自分が【Ω】である彼に尽くされる理由はないはずだ。本来ならば


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