短編集/女主 | ナノ


▼ 7


「先生、その手紙は?」
「ああ。これか…。」




義勇の師、鱗滝左近次には文通している相手がいる。それはこの師の元に身を寄せてからそう日数は立たずに気づいたことだ。錆兎や己には公に伝えられることはなかったが、真菰がどうやらその相手から定期的に髪飾りや着物を送られていたのを彼らは知っていた。最終選抜が終われば師が相手の元へ自分たちを連れていく算段であることも知っていた。けれど、その直後に届いた手紙には病に伏せたから来ないでほしいという功がかかれ

義勇も錆兎を亡くして意気消沈していたために見送られてから、早数年がたった今、師の元に訪れた義勇は整理された手紙の一部を拾い上げて目を通し、聞く。




「はい、いつも月に一度書いていたのは知っていたので…」
「そうか…。これはな義勇、遠くにいる恋人の物だ」




穏やかに師が話した言葉に、義勇は目を見開き顔を上げた。師に恋人がいる事実もそうだが、彼が自分たちの修行中にどこかへ行ったことなど一度もなかったのだ。




「!!」
「義勇、お前の考えている事はわかる。だがな、逢いに行くつもりはないんだ」
「…」
「決意が、鈍る」



愛おしそうに大事に仕舞われた手紙が、箱の中で何十をもの層を作り、仕舞われる。それだけで師とその恋人がどれほどまでに手紙だけでの逢瀬を重ねていたのかが伝わる。


カァカァ
鱗滝がふたを閉め、ふすまへと荷物を仕舞ったと同時に、その翼を折り畳み、足についた手紙を運ぶ鱗滝の鴉が窓の淵へと降り立った




「義勇、儂はな、このひと月に一度の手紙だけでいいのだ」




きっと彼女もそう思っていることだろう。



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