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巨人が出現した。
それはまたたく間に壁の中でまるで伝言ゲームのように伝わり慌ただしく駆ける兵士たち。
障害物が多いということで馬は訓令用馬も僅かに残っていた改良も馬小屋で待機。
しかし幾匹の馬が自分の主人を心配して暴れだす
『俺を出せ!ケインツのもとに行かせろ!』
『あたしを出してよ!メルの元に行かなくちゃ!』
なぜ馬が暴れているのか、理由を知らない人間たちはただ困惑したかのように落ち着かせようと声をかける。
ちがう。違うんだよ。怖いんじゃないの。巨人が怖いんじゃない。彼らは自分のパートナーが知らないところで消えるのが恐いんだ
昔、とある班長の馬が壁外調査のとき帰ってこないことがあった。その馬と行動をともにしていたという馬が言うには巨人との交戦時下半身を食べられて絶命したらしい班長の側に寄り添うように座り込みずっと何か話しかけていたらしく、回収しようとした人の言うことも聞かずにずっと鳴いていたとのこと。
『俺ら馬はな、忠誠心が厚いんだよ。俺だって今の主人が死ぬなら例え何も言わない肉の塊でも死ぬまで側にいるさ。それで天の国までお供して言ってやるんだ。お前手綱な操作雑いんだよ!ってな』
楽しそうに鳴いた馬はブルルと鳴く
普通の人より早く居なくなる兵士。それに共をする形で寄り添うように馬
あぁ。一人じゃないんだと旅ゆく霊兵達に祈りを捧げた
だから暴れる彼らの気持ちもわかる
『一人で死なせてたまるか!俺も行くんだ!』
『私はあの人のパートナーよ!?私に最後までお供させてよ!』
「何言ってるんだ!お願いだから鳴きわめくな!忙しいんだぞ!?」
うん、確かに忙しそうだ
私は水を飲み相手に見えないよう後ろへ行き人の姿になった
『カルデア…!?』
「皆さん落ち着いて、私が皆さんの分まで見届けて来ます。大丈夫。きちんと伝えますよ」
どんなに残酷な結果だとしても。
そう言って、人間には見えないようなところに出て壁に向かって走り近くにあった起動装置を身に着けた
「行ってきます」
ーーー少しでも命を助けるために。どれだけできるかはわからないけれど
勝手に拝借した立体起動装置をつけて私は走る
壁の上にワイヤーをひっかけることでのぼり巨人がいる方向を確認した
そのまま何かを言いかけた兵士を無視して走れば幾人かが信じられないようなものを見る目で私を見る
けれど私はそんな事気にしている暇なんてないんだ
兵士が集中しているところに駆けても意味がない
においをたどる?それとも足音?トロスト区ってどこ
考えるけれど足は休ませない。そして見えてきたのは巨人が人を掴み上げているところだった
アレは確かシャルの主人だ
「−−−っ!させるわけないで、しょっ!」
ブレードを巨人の項に充てて自分でもやりすぎかと思うほど深く抉った
飛ぶ血しぶきが頬にかかり落下していく彼女を追いかけて地面すれすれでキャッチする
「大丈夫ですか!?」
「…う、ぁ…ありが、と」
お礼を言う彼女を腕に抱え壁の上へと運ぶ
誰もいないけど彼女はけがもしてないから大丈夫なはずだ
「私は行きます。あなたは…」
「−−−っ」
「…そう、ですか」
問いかける私に彼女は体を震わせて息を飲んだ
それはすなわち拒絶
巨人がすでに彼女の中で恐怖対象として認知されたことを意味する
「ち、ちがうのっ…!まって、行くわ、いくのよ、なのに…あれ…?なんで?足が、動かない、手が、手の震えが止まら、い」
ガタガタとブレードを持つ手が震えるのか何度も何度も取りこぼす
筋肉が硬直しているのかもしれなかった
「無理、なさらないでください。大丈夫落ち着いて」
彼女の背中を撫でれば薔薇の文様が震えている
押し殺したように聞こえる鳴き声に、私に反応しなかった巨人にやっぱり私は違う生き物なんだと突きつけられた
けれど、なぜだろう初めて使う立体起動装置もブレードの使い方もうまくいったのは
エレンの傍で見てきたのもあるかもしれない
だけど、まるで本能に刻まれたような感覚で
「うわっぁあああああ!やめろ離せ離してくれぇえええ!」
「っ!」
駆けだしたタイミングと壁から飛び降りるタイミングは一緒
そのまま重力に沿って落ち、ワイヤーを巨人の腹に駆けて腕を切り落とした
そのまま巨人の項を切り取り建物一つはさんだ方にいる5メートル級にとびかかる
「てゃぁあああああ!!」
声と共にブレードを振り下ろして項を抉った
胸の内におこるのは喜びでもないただ変なものを排除したという感情
さぁ、つぎへ
そう思ったとき中央の方でなにか光った。
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