番外編等 | ナノ


▼ 3

風が止み、恐る恐る目を開けるとそこにあったのは水面だった
狭く木でできた船の上に私は立っていて、横に眼下に広がる海のような目をした弟分が呆然とした顔でこちらを見上げている

強制的に送り込むことには成功したようでよかった



「ね、ねえちゃ…?」
「心配かけさせないでよ立香」



震える声で問いかける弟分にそう返せば、次の瞬間には腰に抱き付かれ大泣きされる
嗚咽とかいろんなものが混ざって聞き取りにくいけれど、この場面になるまでにいろいろあったらしく、ひたすら怖かったとか心細かったとかを吐き出した。
というか、こんなボロくこじんまりとした船じゃさすがに危ないと考えて、近くにあった島に船を寄せる



「はいはい、立香泣き止む。情報収集しなきゃいけないんだから」



未だ腰に抱きつきぐすぐすと鼻を鳴らす彼の口にリンゴ味の飴を投げ入れれば、懐かしそうに眼を細めて味わっていた。四次元ポケットから取り出したハンカチで目元を拭きながら、ティッシュを渡して鼻をかませる。よし、見れる顔になった



「姉ちゃん、どうしてここに…?」
「あんたの魔法回路たどって一人だけ強制的に送り出せるってわかったから、代表で私がこっちに来たの。」



歩きながら事情を説明し、質屋と思しき小屋に入り、ファラオから受け取った純金の一つをお金に変換した。途中店主が安く買い叩こうとしたのを見て、こちらも遠慮などせずに元の値打ちより高く買わせる。外交では意外と強気である日本出身を舐めるなよ?

渋る店主の腕からこの世界のお金を受け取り、買うのは船だ、ここが何処かは分からない以上通行手段を整ておかないといけない。近場の酒屋に入り、話している言語を聞き分ける。



「全部日本語に聞こえるんだよね。立香はどう?」
「俺も、同じ、日本語に聞こえる…」



自動翻訳付きね、じゃあ新聞でもおいていないのだろうか。
カウンターに座り、軽めの食事を二人分頼んで人がまばらな店内を見渡せば、隅の一角にあるソレを立香に取ってこさせる。
私がカウンターを離れると少し面倒だし



「はい、姉ちゃん」



あらかじめいくつかの新聞を持ってきた立香は優秀。
頭を撫でて、二人で新聞を覗き込めば、アルファベットが並ぶそれを流して読み込んだ
うん、理解、英語だコレ
とばされたのはアメリカのどこか、かな?文体的にイギリスもあり得るかもしれない
というかここが別世界だと分かっているけれど、語源の共通に少し違和感を覚えつつ、運ばれた料理を口に運ぶ



「んー。アメリカ英語みたいに見えてアメリカ英語じゃないね。アメリカとイギリス英語がごちゃまぜになったみたいな…」
「立香もそう感じる?というか、英霊直々に教わってたし、そう感じないとおかしいか、この新聞読み辛い」



なんだろう、行ってしまえば京都弁と九州の方言が入り混じったような新聞
時間旅行をしてた国語を覚えた私と、マスターとして様々な英霊に語源を教わった立香だから読める物で、これがこの世界の共通語ならとんでもなくめんどくさい。

もちろん別世界から来た私たちにとっては、だけれど

おまけとついてきたコーヒーを口に含むが思わず舌を出す


…なにこれおいしくない。この時点でここはアメリカじゃないな。アメリカ、イギリスで絞ってはいたがドイツは確実にない。アメリカもドイツもコーヒーの味にはうるさい国だし、じゃあ、イギリスかここはと、メニューに書かれた紅茶を飲んでみるが鼻を抜ける風味も雑で違うなと頭の中ではじく。

私の見立てではアメリカ開拓がはじまった時代かもと感じていたが、もしかしたらアメリカもイギリスも、ましてやあの世界にあった国がそもそも存在しない世界なのかもしれない。これは予想以上に厄介な…

立香も紅茶とコーヒーを口に含めて思いっきり顔をしかめている。

まぁ、某王妃様やらなんやらにお茶会を誘われていたし、さぞかし舌も肥えているだろう。

重いため息をつきながらもう一度酒屋を見回したとき、手元の新聞に目を落してページをめくり、そして頭を強く机にぶつけた


「ねえちゃん!?」



驚いたような立香の声に反応を変えさずに、めくったページにもう一度目を向ければ、そこには満面の笑みで指名手配されている言わばこの世界の“主人公”

そして新聞に踊る文字はアラバスタだかアバラスタの話で、いま何があっているのかがなんとなくわかってしまう。あぁ、うん。今回は私個人としてではなく、立香のサーヴァントとして彼を安全に返すことが私の仕事。つまり、マスターを原作にかかわらせずに過ごして帰ることが、私の仕事だ


あぁ、もう



「どうしてこうなったんだか…」

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