▼ 1
おまけ
「…立香がいない?」
顔をしかめて聞き返した私に偶像<アイドル>と評される可憐な王妃は心配そうに胸の前で手を組んだ
「えぇ、そうなの。ジャックやナーサリーと一緒にマスターを呼んでお茶会をしましょうって言っていたのに」
潤むアクアマリンの瞳は不安に揺れ「どうしましょう」と呟く
私は近くを歩いていたカーミラに声をかけるが白髪の髪を揺らし「知らないわ」と言い、カーミラが近くを通るロビンに声をかける
そんな伝言ゲームのように伝わる立香が行方不明と言うそれはたちまちにカルデア内を駆け巡った
ほとんどの英霊が食堂に集い、皆が皆不安げに出入り口の方を見つめる
もしもいつものように気楽な顔で弟分がはいってくるならこの空気は一瞬のうちに軽いモノへと変わるだろうに。
「大変だよ!」
「ダヴィンチ…」
珍しく険しい顔で今は女性の身体を持つダヴィンチが息を荒らげて走り込んできた、その後ろではマシュが青白い顔でカタカタと震えながら私の方へと駆け寄る
「先輩が、先輩がどこにもっ…!」
「うん、わかってるよ、落ち着いて」
薄い紫色の髪を撫でながら泣き出してしまった彼女をソッと横に来ていたランスロットは、ダメだからモードレッドに預ければあからさまにショックを受けた顔に少し罪悪感が募るが今はそれどころじゃない
立香が居なくなったこと、しかし、この世界にはいないと分かっていること、立香が身に着けている礼装から生存していることは分かっていることを伝えられる
一先ず生きていることだけでも分かるほっとした空気が食堂に流れた
けれど彼はどこに行ってしまったのか。いや、立香のことだ、よほどの危険が無ければ逞しく生きてるのではないだろうか
「そこでなんだけどね、立香君の礼装から強制的にこちらに接続をして一人だけなら英霊を送り出せるハズだ。その英霊をきめたいと思う、けれど条件があるよ、いついかなる世界に飛ばされても立香君を守ることができて順応できるものに限られる」
一瞬ゾクリと嫌な予感がした
ダヴィンチちゃんの言葉が食堂に響いた瞬間、誰もが一瞬にして私に目を向けたのだ
prev / next
目次に戻る