番外編等 | ナノ


▼ 3

何か、いつもと違う雰囲気を感じて彼女は目を開ける

そうすれば自分はなぜか立香と同じ制服を身に纏う少年少女の中に居て、立ちすくむ。目の前で話すのは今はいない、カルデアの所長であるオルガマリー。




「―――ここは」
「説明は以上よ。各自部屋に戻っていいわ。あぁ、だけどAチームは残って頂戴。最後の一人が来る前に明日のレイシフトの話、しておくから」




スッと前に出る少年少女を見つめながら解散する列に交じり、混乱しながら退出しようと身体を自動ドアの方へと向ければ、誰かに肩を掴まれて振り返る




「おい、お前もAチームだろう。帰るな」
「まったく、群れたくないからって上官の命令無視はどうかと思うぜ」
「A、 チーム」
「信じられないみたいな声出すんじゃない。おまえ、自分が召喚する予定のクラス覚えているか?エクストラクラスだぞ」




灰色のような白いような髪をした少年に肩を掴まれた手を叩き落とす
乾いた音がレイシフト室に響いて、空気が凍ったのを肌で感じるけれど、それどころじゃない。混乱している。何が起きているのかわからない。

自分の格好を見下ろして一歩下がった




「マスター、服」
「ちょっと貴女、さっきからなに可笑しな行動しているの」




使役する側の服…?私はサーヴァントで、使役される側のはずだ
困惑し、自分の胸を抑えるように両手を握り締めた瞬間、―――ドクンと何かを感じる。
流れてくる大量の記憶にふら付いて崩れ落ちれば意識が遠のく。誰かが「医療班を!!」と叫んだ声は聞こえても、それ以上は聞こえなくて




―――私の名前は藤村香。年は==歳で、孤児
―――高校は普通科、そのあと大学の献血でなぜか学長室に呼ばれて急な強制休学を宣告
―――孤児院長先生の見送りでのこのカルデアに、魔力とレイシフト率の高さからAチーム入り
―――召喚する予定のクラスはエクストラ

―――時間逆行などという体験はない。
―――藤丸立香という弟分も居ない。
―――加賀地という幼馴染も居ない

―――共通するのは、夢の中で泣いている男の子と話したところだけ。

―――孤児院出身ゆえか口下手であり友人もいない。




「―――こ、れは」




呟いた瞬間に誰かが私の顔を覗き込む




「―――っ!!」
「あぁ。起きたんだね。初めまして、僕はロマニ。君、昨日倒れてここに運ばれてきたんだけど、大丈夫かい?」
「―――ろ、まに」
「うん、なんだい?」




掠れた声で、彼を観察する。

―――一方的に知っている。この世界では面会のない、魔術の王

眠っていたおかげか頭の整理がつく。この世界はきっと正規に近い時間軸のパラレルワールド。この世界に導き手と呼ばれた私は存在しない

そして私の中には、なぜか一つの聖杯が埋まっている。

その存在が私を異質だと主張した。そして私が人間でもサーヴァントでもないことを確定させ、同時にここが特異点でないことを植え付ける。




「さてと、今日は48人目のマスターが来たからレイシフトの説明とともに実戦があるんだけど、出られそうかな?」
「――問題ありません」
「そう、よかった、あぁ、あとね、君、健康診断受けに来てくれなかったから寝ているうちにやっておいたよ。まあ、なんていうか魔術回路が異常なんだけど…」
「そうですか」
「うん、そうだよ、無理はしないようにね」




深追いせずに微笑んで送り出す彼に頭を下げてベットから下り、レイシフト室へと歩く。医務室を出てから、そのまま真っすぐトイレに入ると、杖を手にするイメージで思い出せば、いつも通り、手になじんだ桜の水晶が埋め込まれた杖はその姿を現した。




「―――杖も出せるし、宝具も使える。だけどこの世界に私の座はないから、この聖杯だけが魔力の依り代…、クラスは―――、ルーラー、か」




情報を与える願望器
けれど一体なんでこんなことになっているのは本当にわからない。何が起きてんだ私に


しばらく壁に寄りかかって考えるけれど答えが出ないのだ。

それに私が居るはずの世界軸で、私はカルデアに居るのか、それともその世界からこちらに飛んだのか。
瞳を細め、ただ無い頭で正解を探り出すけれど見つからない、見つけられない。


―――刹那―――


床が大きく揺れた

壁に寄りかかっていたおかげで無様に倒れることはなかったけれど、すぐに揺れと音が聞こえたほうへと駆けだす
―――ぬかった
舌打ちと悪態が口からこぼれ、ひびの入ったシュミレーターだったかレイシフト室だったかよくわからない部屋へと駆けこめば、血の匂いが充満する―――地獄だ。

視界に入る淡い紫のような髪と明るいオレンジ色の髪に、あぁ、女主人公かと零して近づく


けれど、無機物的な、冷たい声がカウントダウンを開始した。


なんの、だとか野暮なことは聞かない。聞けない。けれどこれは




「物語の幕開け。プロローグ…?」




思った以上に響く声、それに反応して二対の視線が私を捕らえた瞬間、世界は光に包まれた



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