番外編等 | ナノ


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第三者サイド


貫く槍に、飛び散る赤。
苦しそうにうめく少年に男は何も感じられない色をともす瞳で見下ろした
いや、何も感じられないじゃない。何も感じていないのだろう。

きっと彼は己の姿の変化すらも感じていないのかもしれない。まがまがしい姿は一言に邪神といっても障りない。




「めんどくせえ、心臓八割散ったってのに行き足掻く。厄介なもんだな、サーヴァント、英霊ってやつは」
「ガッ、ハ…!」




地べたに倒れこんだ少年は胸を押さえて苦しそうにあえいだ。
強い意志のこもった眼差しで、自らの心臓を貫いた男を見上げる

けれど自分はここで負けるわけにはいかなかった。最愛の妻、シータと巡り合うために、ここで倒れたくはなかった。あえぎ、息も絶え絶えに言葉を紡いでも、それをバッサリと切り捨てられる




「…くっ…!」




悔しい。目の前がすでにかすみ始めたときだ。美しく、淡い緋色の結界が己と敵の間に張り巡らされる。そして自分をかばう様に誰かが目の前に立ちふさがった。
いや、誰か、などとよそよそしい言い方は相応しくない。

自分と妻の知人であり、友人であった少女だ。

妻がさらわれた時も自分に何度も叱咤し、妻が疑われた時も「あんたが信じなくてどうする!」と真正面から王である自分の頬を張った少女だ。
結界を作ることに長けていて、傷をいやすことを得意とした…




「…ティーア、か」
「あぁ、そういえばそう名乗った気がする。そんなこと、今はどうでもいいけどね。だけど、ほんと、サーヴァントって難儀だよね、そこは同意するよ、クー・フーリン」
「…懐かしいな、軍師」
「そうだね、…ところで引かない?」




最後に見たときよりも大人びた表情で微笑み、彼女はこれ見よがしに杖を振った。




「…どうする」
「……そうね、モーちゃんがいるのは分が悪いわ。…ねえモーちゃん」
「なに?メイヴ」
「貴方も私の中ではケルトの人間よ。そのサーヴァント、見逃す代わりにこっちに来ない?…ね?そっち側は危険よ?ママが守ってあげる。だって負けるところに娘一人なんて置いて置けないわ。」




控えていた美女が優し気に微笑んで少女に優しく、説き伏せるように囁いた。
けれど少女も柔らかく笑う




「娘の反抗期、親として受け止めてくれないの?」
「あらっ!うふふ、反抗期!…素敵な響きだわ。でも駄目ね、まったくもって駄目よ。だってモーちゃんと敵対なんて私悲しくて悲しくて泣いちゃうわ。…ねえ、王様。モーちゃんを捕まえて?そしたらお礼に、そうね…本当は嫌だけど、モーちゃんを好きにできる権利を上げる。勿論殺す以外のね?」
「俺は、こいつに興味ねえが?」
「あらあら、ふふふっ。それは嘘よ。だってあなたを作ったのは私だもの!私が作ったあなたがモーちゃんをどうでもいいわけないわ。それに、あなた生前モーちゃんを捕虜に欲したじゃない。今まで何も私から取らなかったあなたが、私からもっとも大切なものを奪ったじゃない。だから私は提案するのよ、好きなあなたに提案するの。」




不穏な会話に少女は眉を寄せて、ラーマの隣に移動すると後方を確認する。いつ出ていくかとタイミングを見計らう彼らに、顎を使って撤退を指示した。そしてラーマの背中に呪いの効果を弱め、進行を遅くするルーンを描き、彼の背中に手を置く




「話し合いは済んだかな?」
「ふふっ、いい子ねモーちゃん。ちゃんと待っててくれたの?でもそれが命取りになるわ」
「待ってたと思う…?」




ずるさを貴方から学んだ私が?
楽しげにすら聞こえる声音で香が話すと、彼女の足元から魔法陣が浮かび上がる。
そしてその中の文字を目に入れた瞬間オルタは走り出した。心臓を狙い、穿つと言われた槍で何度も結界を攻撃するが傷一つすら付けられない




「っチ…!!」
「知ってるでしょ、私の結界は強固なの。分霊に破らせるほどやわじゃない。なんせ私、一応生身の人間なものでね!」
「しまった!移動のルーンね!」




風が足元から生み出され、次の瞬間には別の街へと転移していた。
そこにいたレジスタンスの人間に事情を説明しているときに先程出会った見覚えのないサーヴァントと会話をする。
ジェロニモさんというらしい。多分真名違うけど。というか彼は私と若いころに会っているとか。マジか。そんなインパクトにも真ん中に線が入ってる君とあったら忘れないと思います。え、これはシャーマンになったころに入れただけでも、若いころはなかった?そりゃ知りませんよ。記憶力の弱い私に何を期待してるんだか。




「…とりあえず、ラーマを頼んだよジェロニモ」
「あぁ、わかった、君はどうするつもりだ、モブ子」
「…私は、ほかのサーヴァントを見つけ次第、声をかけてみるよ。知り合いも多いだろうし。
あぁ、そうそう、治療に特化したサーヴァントがいるから彼女にラーマを見せるといい。ここからそう離れてはいない場所だよ。じゃあね」




その前にいろいろあるだろうけど頑張って!
見つけた後も婦長が暴走すると思うけど頑張って!私は知らない。遠くで見守ってるから!…あ、そういえば立香がカルナに宝具解放されるところあったな…。でもカルナに運んでもらわないとどっちみちエジソンに会えないし…。でも行くと婦長がいるんだよねー。




「………覚悟を決めるか…」




私は重くため息をつきながらジェロニモから渡された地図を広げる。そしてナイチンゲールが一番いそうな戦場の最前線へと歩きだす。
めんどくさいよー。何がめんどくさいって出会った瞬間多分奴は私に過重労働を強いる。知ってた。

適度に水を補給しながら見えてきたキャンプの中へと入れば盾を持った少女を目視して、慌ててテントの中に入る




「歯を食いしばってください。たぶん、ちょっと痛いです。
…そうですね、例えるなら、腕をズバッとやってしまうくらいには痛いです」
「そのままですね!!?」
「ナイチンゲールっ!!ストップストップ!!落ち着いて!何でもかんでも切除しようとしちゃダメだって何回も言ったじゃん!!」
「先輩!先程こちらに不審者が!」
「え、あ、え…?」
「モブ子!?あなた、今まで一体どこに隠れたいんです!患者がこんなにいるんですよ!」




とにかく離しなさい!と暴れる婦長を私は押さえつける。いやいや、離す前にその物騒なもの置きましょう??それおいてお姉さんとお話ししましょう!!??
何でも物理で離すって考えダメだってば!それも治療だけど大抵の現場じゃ最終手段だから!あと立香もいろいろ混乱してるんだろうけどごめんね!?後で説明するから!

―――10分後―――


敵を倒して、じゃあ根源倒しに行こうかとなったとき、やっぱりエレナちゃんが邪魔するのね…




「あらやだ、モブ子じゃない!何してるのこんなところで!」
「エレナちゃんさ、寒くない?心が」
「それは私の格好に対してのコメントよね?張り倒すわよ」
「え、その体で…?」
「訂正するわ。張り倒すわよ、カルナが」
「……」




見た限りどこにもいないです
だけど、いやな予感がする。私の前でマシュたちが機械を壊し、そして宣言した瞬間にエレナちゃんは不敵に笑って言ったのだ




「じゃあカルナ、ちゃっちゃとやっちゃてー!」
「…出番か。心得た」
「心得んな!!『展開!』…!マシュ惚けないで!…おいこらそこのドクターお前もうちょっと仕事しろ…?」
「は、はい!お手数おかけしてすみませ…キャアッ!」
『ご、ごめんなさい!』




簡易的にだがそこそこ強力な結界を張ることで彼らを守った、けど、あっちも全力じゃいよねこの手ごたえ。というか、なんで立香とマシュは気絶しちゃうのかな!!?ナイチンゲールも少し意識飛んでる。バーサーカーはどの属性へも攻撃が効くけど、どの属性の攻撃も効いちゃうから…。

ピシピシと結界にひびが入り始める。
相手が全力に近い力を出し始めてる。というか多分カルナ、私だってわかってない。




「っ、カルナ!いい加減にしないと私も怒るよ!!?」
「!!っ」
「あら」




怒鳴った。多分初めてカルナに怒鳴った気がする。
一気に攻撃が止み、空中から呆然としたようにこちらを見下ろす紅の瞳にはありありと悲しみの色が浮かんでいる。というか少し絶望が入ってる。




「…し、しおん、怪我は…」
「…私はないけれど、カルナ、彼らは力のない子供だよ」
「いや、彼女はサーヴァントでマスターは青年だ」
「…カルナ。」
「……」




いや、確かにマシュはサーヴァントだしナイチンゲールもサーヴァントだ。だけれど立香に向かって攻撃したことは許さない。
腕を組んで、さあ、どうぞ申し開きがあるならいいなさいと理不尽な主張だと自覚しながら、私はカルナと目を合わせる。しかしカルナは何か思うところがあったのかスッとそらした



「はぁ、まあ、今は立香を地べたに転がしておくほうが問題だね。カルナ」
「…」
「別に責めてるわけじゃないよ。ただね、あんたが攻撃すると危ないの。英霊にならともかく、人がここにはいた。マスターといえども立香は人だよ、それを考えなさい。」
「…すまない、配慮が…む」
「甘いものでも食べて反省ね。エレナちゃんもどう?」
「いただくわ」




カルナの口に白桃の飴を押し入れて、エレナちゃんの手にも置く
取り敢えず荷馬車に立香達を寝かせて、私はカルナの隣に座り、エレナちゃんと向き合った




「まあ、言いたいことが一つあるんだけどね、エレナちゃん」
「…?なあに?」
「私、サーヴァントじゃなくて生身の人間なんだよね」




馬車の中で、エレナちゃんの声にならない絶叫が響き渡る
気持ちはわかるよ。わかるんだけどごめんね。ほんとに生身の人間なんだよね。タイムトリップ的な何かができる人間なんだよね。

白く陶器のような肌をさらに白くさせたカルナが私の手を取って「けがは」と幼い口調で聞いた
あぁ、うん、大丈夫怪我してないから

というかそんなに心配するほどの威力で撃ったの…?反省して…?

ガタガタと震えだしたカルナの頭を撫でながら私はとりあえず笑みを浮かべておいた
これすると大抵の人間落ち着くからね。




「俺の、配慮が足りなかった…」
「大丈夫大丈夫、反省を次に生かそうね?」
「…ようやく再会できたお前に、こんなこと…」
「私はカルナに会えてうれしいよ。勿論エレナちゃんにも会えてうれしい」
「あら、ありがとう」




メイヴちゃんやらに会えたこともうれしいけど敵サイドですっ!
というかさりげなくカルナは抱き着くのやめようか。抱き着くというよりこれ抱きしめるだね。いや、体の震えも収まってるし、安心してるんならいいんだけどね




「紫苑、紫苑。会いたかった」
「…そっか、うんうん、それを聞くのは何回目かな。どくさに紛れて服をめくるな」
「…?」
「無自覚だと…?」




天然もここまで来ると恐ろしい
え、私カルナ見て思ったけどぶっちゃアルジュナに会いたくない。怖い
何されるんだろ私。


一人恐怖に震えつつ、私はまだ眠る立香を見つめて手で顔を覆った






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