歌を…番外編 | ナノ


▼ かごめかごめ

 その日、五条の紹介で七海建人と灰原雄を交えた学内授業があった。珍しく一年全員が同じ教室で授業を受ける中、不意にヨルの影が揺らめく。びくりと虎杖の肩が震え、ヨルの影を凝視する。しかし影から触手やら手やらが出てくることは無く、ただぴょこんと可愛らしい効果音と共にヨルの使役する”黒“である”かごめ“が顔を覗かせた。
 特級に指定される彼女が出てくること自体が珍しく、五条と夏油が動きを止め、ヨル自身も目を丸くして己の”黒“を見下ろす。


「“かごめ”?」
【なぁにママ】


ヨルの声に”かごめ“が応答する。鈴を鳴らしたかのように心地のいい声音が教室に響き、呪術師達が彼女たちの動きに注目した。


「なんで、出られるようになってるの?」


 当たり前の疑問だ。今まで自分が呼びかけなければ出てくることのできなかった”黒“、しかも特級というジャンルに分類されるソレが何事もないかのように影から全身を出し、ヨルの膝に乗っているのだから。ヨルのどこか不安そうな問いかけに”かごめ“がゆっくりと口を開いた。


【それはおそらく私と“縁”がある人間が居るからだと思う。】


 縁のある人間?教室に変な空気が漂ってお互いがお互いに顔を見合わせる。仮にも呪霊。でも見てくれだけはレベルの異常に高い美少女である“かごめ”と呼ばれる“黒”。彼女を知っている人間もとい呪術師はこの場に居なかった。いや、言い方に語弊がある。外村ヨルという存在が出てくるまで“かごめ”という幼女の姿をした呪霊を呪術師達は見たことがなかった。それなのに“かごめ”はまるで誰かと会ったことがあると言わんばかりの口調。謎が謎を呼ぶ。こぞって全員が首を傾げる。そんな中でヨルの膝に乗ったまま、スッとその小さな指先が教壇で教鞭をとる二人の呪術師に向けられた。

───七海建人と灰原雄である。

 指を向けられた二人も頭上にクエスチョンマークを浮かべながら自分達かと首を傾げ、夏油と五条がそれぞれ弟子と後輩たちに目を向ける。ヨルも怪訝そうに首を傾げている辺り彼女は何も知らないようだ。どういうこと?震える様な声で”黒“に問い掛けるヨルに”かごめ“が胸を張りながら言い切った。


「だってかごめ、この子たちをママに使役される前食べようって思ってたし」


 空気が固まった。あどけない幼女の口から零れた”食べる“という言葉。


「あっ…!」


 不意に五条が声を上げ、”かごめ“を指差す。そして納得したと言わんばかりに言葉を吐き出した。


「案件D856!」
「「!!」」


 案件D856?一年の四人が首を傾げ五条を見れば、夏油が説明するかのように口を開き、どこか警戒するように身構えた。
 案件というのは任務または経過観察対象をさし、Dというアルファベットは任務の種類を示すという。この場合、Dは【土着信仰】をさし、【任務『土着信仰』の856ケース】の略称が案件D856というわけだ。
 教師陣営にとってその案件D856は余程苦い思い出があるのか、顔を歪めながら彼らが“かごめ”を見据え、ヨルに視線を流す。いきなり四人の呪術師から視線を貰ったヨルは少しだけ肩を震わせキュッと“かごめ”を抱きしめた。
 

【ママに何かするようなら怒るよ?】


 ヨルの腕の中にいた”かごめ“の存在感が上がる。黒かった瞳がゆっくりと血に染まったような赤色に変化し、朱色を基調とした着物の端から黒く染まり始めた。パチンとまるで炎がはじける様な音。それに対し五条が片手を上げながら緩く笑う。


「勘違いしないで貰うとありがたいんだけど、僕らがヨルに何かをするということは無いよ。…というか、君の処遇をどうするかだなぁ」


 どうしよう傑。困り切ったような五条の声を合図に呪術師四人の視線がヨルから外れる。ふっと抜けた重圧にヨルの肩が下がり、“かごめ”を抱きしめる力も弱まった。知らずに緊張し身構えていたのだろう。額に浮かんでいた冷汗が自重に耐え切れず頬を伝って地面に消えた。


「どうするも何も、D856は悟の担当だろう。見つけ次第、異変があり次第始末だ」
「見つからなかったことにすればいいんじゃないんですか?」
「おっ、灰原良い事言うねそれ採用」


 D856は見つからなかった。ソレで行こう。
 仮にも受け持つ生徒の前で堂々とした不正行為が行われている。明らかに教育には悪いし、ここに夜蛾が居れば頭を抱えたことだろう。けれどそんな彼らにヨルが救われたのも事実。


「あ、あの。七海さん。灰原さん」


 カタンと控えめな音を立て、ヨルは席を立つ。その腕にはすっかり元の可愛らしい女童に戻った“かごめ”を抱いている。


「どうされましたか外村さん」
「んー?」


 彼らよりも小さいヨルに会わせるように灰原が膝を折り、七海が怖がらせないようにと言葉を返す。そんな彼らに対してヨルは頭を下げた。


「“かごめ”のこと、ありがとうございます」


 使役する前だとはいえ今の“かごめ”はヨルの使役する“黒”だ。そんな後輩の様子に彼らの手がヨルの頭と肩に乗る。ハッとして顔を上げた彼女に対して彼らはやさし気な笑みを浮かべた。


「お礼言うのはこっちだよ、ヨルちゃん。俺、ヨルちゃんが“かごめ”ちゃん?召喚してなかったら多分死んでた」
「灰原の言う通りです。私達は貴方に感謝をすることはあれど責めるようなことはしませんよ」


 この話は終わり。そう言いながら彼らの手がヨルから離れる。そんな、先輩と言うべき彼ら二人に対して、ヨルは心の底から感心したかのように呟いた。


「ま、まともな大人…。」
「ヨル?」
「え、それどういう意味?」


 もちろんそんな彼女のつぶやきに対して担任と担当が思わずツッコミを入れる。そんなヨルの様子に虎杖が「わかる」と頷き、釘崎と伏黒も小さく頷いたのだった。












ヨル<初めてまともな呪術師を見た
虎杖<わかる
釘崎・伏黒<無言の頷き>
最強‘s<エッ…。

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