歌を…番外編 | ナノ


▼ 順平と虎杖が再会する話

「あの、さ。虎杖君、ちょっとだけ話があるんだけど…」
「?」


 とある日の昼下がり、まだ付き合う前の段階だったころ。外村ヨルがどこか控えめに虎杖に声をかけた。そんな彼女の姿に虎杖は目を丸くし、珍しいと言わんばかりに身体をそちらへ向ける。


「珍しいね。何?」


 内心のガッツポーズを悟らせることなく虎杖がヨルに向けて笑みを浮かべれば、どこか気まずげに肩を上げながらヨルは手を叩いた。乾いた拍手の音が二人の間に響き、ほんの僅かではあるのだが空気を揺らす。
───とぷり。
 そんな音を立てながらヨルの影が揺れた。そして次の瞬間、虎杖は息を飲む。何処か自信なさげの笑み、片目を隠すような前髪と平凡な顔立ちをした青年が虎杖に言葉を投げかける。


「久しぶり悠仁」


 懐かしい声だった。失ったと思っていた声だった。それなのに彼は今、目の前にいた。なぜ、だとか、どうして、だとか。そんな言葉と感情が浮かび上がるより先に虎杖の身体は動く。自分に比べれば細いと言えるような体格。その体に思いっきり抱き着いた。ぐらりとその青年が揺れ、床に倒れ込む。


「順平!」


 ごめん。そう絞り出した言葉に、順平と呼ばれた青年が首を振った。


「僕の方こそごめん」


 囁くような謝罪。その二人の様子にヨルが肩を撫でおろしながら近づく。


「再会できたようで良かった」


 深い焦げ茶色の瞳が安堵に瞬いて彼らを眺める。そんなヨルに虎杖が顔を上げた。どうして?と、無言で問いかけるその視線に、ヨルも少しだけ首を傾げながら言う。


「私も理解はできてないんだけれど、吉野君は私の”黒“の一つになったの。」


 けれど他の黒とは少しだけ違うんだよね。そう零しつつヨルが虎杖たちを優しく見つめ、もう一度同じ言葉を口にした。


「再会、できたようで良かった」


 ずっと言ってたもんね。吉野君さ。
 

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