歌を…番外編 | ナノ


▼ 主人公が召喚する場面を観察する呪術組の話

その日は珍しく外村ヨルが任務に出かけず、彼らと日常を過ごしていた日のことだ。姉妹校の交流戦も終わり、比較的平和な時間が一年の間に流れ、近状報告を各々が口にしていた時のこと。ヨルの担当である夏油が五条悟を引き連れてやってきた。




「ヨル」
「先生」




担当の呼ぶ声に、カタンと音を立てて、ヨルが立ち上がれば、虎杖と野薔薇がソレはもう嫌そうに顔を歪める。伏黒に至っても顔を歪めはしないものの、何か言いたそうに眉を顰めて見せた。
数少ない同級生と語り合う緩やかな時間が終わりを告げる。そもそも五条悟という人物がいるだけで終わりを告げる。そして、こんな時間に彼女を彼女の担当が呼び出すなんて任務以外ありえないのだ。
せっかく今日の授業が終わったら街に行こうと話していたのに…。




「ああ、いいよ。そのままで。任務じゃないから」




一年の露骨な反応に、夏油はもう笑うしかなかった。というか正直に言えば心の中では大爆笑だった。ヨルが大人しく座る。その近くにより、自分が口を開こうとすれば、面白そうだという理由でついてきた五条が笑いながら言う




「今日は悠仁たちに、ヨルが呪霊を召喚する所を見てもらおうって、傑と話してたんだよ。見たくない?」
「「見たい」」
「…ッス」
「ええ…」




そんな面白い物でもないんだけれど。ヨルがどこか困ったように笑い、そう零すが、彼らの目はどこまでもキラキラに輝いていた。あの伏黒すら輝かせているのだから、どれほどヨルの術式に興味があるかが伺える。彼らはヨルがすでに使役している”黒達“は知っていても、付属したての”黒達“は知らない。そもそも召喚のやり方すら見たことがないのだ。まあ、歌を歌うだけなんですけど…。




「じゃあ決まりだ。みn――」
「話は聞かせてもらった」
「あ。真希先輩」
「私も見てぇ」
「俺もー」
「しゃけ!」
「観客増えるねぇ」




夏油が何かを言いかけた時、一年教室の窓は勢いよく開かれ、二年生全員がそう主張した。どこまでも楽しそうな五条をジッと、半目で見つめつつ、脳内で選曲する。


―――そういえば最近数が欲しいと思ってたんだよね。弱めの”黒”でもいいか。数欲しいし。


もうすでに数百従え、特級すら数体いる彼女の考え。こんなの上層部が聞けばひっくり返るだろう。彼女の術式は何でもありだった。力の強い二体が一曲に着くことは極めて稀だが、弱めの呪霊が数十単位で着くことはある。狙ってできるのかと聞かれれば、ある程度できると答えるだろう。そういう系の歌を歌えばいいだけだ。




「よし、じゃあ見学も含めてグラウンドに行こうか」
「うぃー」
「ヨル、行くぞ」
「あっ、はい」




呼ばれて、立ち上がり、ヨルはグッと背筋を伸ばした









◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


歌が始まる。それはとある少女と色欲に狂っている、愛に歪んだ母親の歌。少女らしい声音で、どこか艶(つや)やかに、艶(あで)やかに、そして、幼げに歌い上げる。

グラウンドに響く歌声に吸い寄せられるよう、彼女の近くに複数体の形のない影が集い、歪(いびつ)に歪(ゆが)んでは姿を作り直されていった。


―――不気味な猫が影の中で笑う
―――「こんなにも興奮し、そこを濡らしているじゃないか」


過激な曲だと、野薔薇は思いながら、己の横で全くと言っていいほど動かない虎杖に目を向ける。


―――食い入るように見るわね。


いや、見ているというよりは、魅入っている。歌う彼女にその瞳に捕らえ、閉じ込め、そして愛でる様な目だ。とろっと、蜂蜜でも出てきそうなほど甘く、緩やかに下げられたソレに、ため息をついた。どうしてこうも全身で好きと言いながら言葉に出来ないんだろうこの男は。

そして、どうしてそれを一身に向けられて、彼女は気づかないんだろう。もどかしい気持ちになりながらも、野薔薇は思う。見守ってやろうなんて、思うのだ。


歌が終盤に入った。それに比例して”黒”未満である影たちの形も定まり始める。


―――ここに居る誰もが皆、嘘で自分を塗り固める中
―――「本当の顔が」現れる


影が”黒“と成(な)った。
“黒”はまるで不思議の国をモデルにしたかのような服を身に纏う、見目麗しい男たちへ変貌する。けれどその”影“はぐちゃぐちゃだった。動物、ただの帽子に小さなトランプとボロボロの王座。チャシャ猫、帽子屋、トランプ兵に王を表しているのだろう”黒達“。ソレらが全員、彼女に膝をついた。普通なら驚いて固まりそうなものだが、彼女はそれでも歌うのを止めない。

目を細め、心を籠めるように歌う。


―――色欲に身を狂わせてもなお、犯さぬよう、穢さぬよう、この花園を壊さぬよう、あの花たちは身を狂わせる。


ああ、綺麗だ。なんて、ありきたりだろうか。同じ年齢のはずなのに、その場にいるのは一人の“女”だ。ヨル自身が己の身体に自分の手を這わせる。本来纏うはずのない色気に当てられ、同性である野薔薇ですら、くらりとゆれた。不意に、虎杖が呼吸すら止める。


―――この愛を求めるならば、膝を折り靴に唇を堕として、アイを語り
―――その心臓すらも私に頂戴。


―――あっ、やばっ。


なんて思う間もなく、野薔薇と伏黒が虎杖の身体に抱き着いた。それと同時にガタッ!!なんて音を立てながら虎杖が立ち上がり、今まさに走り出そうと脚に力を込める。それを必死に、それはもう必死に二人は止めた。




「座れっ、虎杖ッ!!」
「召喚されてるのアンタじゃないわよ!!?あんたが召喚されに行ってどうするの!!」
「――!――!!」




言葉にならない激情を胸に抱いた虎杖を押さえつけ、野薔薇も伏黒も己の教員に助けを求めるような視線を送った。しかし




「「wwwwwwwwwwwwwww」」




声なき笑い。というかもう爆笑。最強の名をほしいままにする二人がソレはもう楽しそうに地面に膝をついて笑っていた。五条に至ってはバンバンッと地を叩きつけている。やはり二人はクズだった。スッと、一時的に虎杖の拘束を二年のパンダと狗巻に預けた伏黒と野薔薇は戦闘態勢に入る。何処かで開戦のゴングが鳴った。







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