歌を…番外編 | ナノ


▼ 旧支配者のキャロル

「制御できない呪霊、ですか?」
「そうそう、一曲位いないの?」
「いますよ」
「あ、やっぱり?」
「でも先生が思ってるような感じじゃないと思います」




適当な場所に腰を掛けて、私は首を傾げた。基本的に私の使役する”黒“は私に従順だ。というかそうなる様に作り変えているらしい。最近分かったことだけど。




「何も考えず、そして本来の力を全力で出すように歌えば、その“黒達”は絶大な力を発揮します。でもトンデモナイ闇鍋ですよ」
「闇鍋」
「はい。当たりか外れかによっては被害を受けまくります。呪霊も人間も。というかSAN値チェック」
「さんちちぇっく」
「理性は有ります。でも神様なので」
「かみさま」
「クトゥルフ神話ってご存知ですか?」
「ソレ、海外のマジでやべー奴じゃないっけ?」




そうですね。でも結局まがい物ですよ。ヤバいけど。そう答えつつ先生を見つめれば、足元からタコのような触手が一本伸びて私の左足に絡みついた。まがい物という表現がお気に召さなかったらしい。本人たちは分霊のつもりだから仕方ない。でも歌に付属するためか、その力は絶大だ。彼らが本気になれば私の術式など引きちぎるだろう。




「見て見ますか?」
「んー、そうだね、実力はなるべく把握しておきたい。てか、制御できないってなんで?」
「人が未知のモノに抱く恐怖心は、私じゃ制御できないですから。でも、いつか歌う時があるかもしれませんから他の人も呼んで来てください。ある程度慣らしておく必要があります」




まあ、使うなんて事態は出来る限り無い方がイイ。私だって初めて召喚したときは絶叫したし。
あの時、吐き気と流れる涙と冷汗は止まらず、ある程度時間が経てば襲ってくる嘔吐感に苦しめられる。多分あれは発狂一歩手前まで行ってた。まあ、私の場合は旧支配者と呼ばれうる神を限度知らず複数体召喚してしまったがゆえに起きた事件だったので、範囲指定をすれば…、いけるか?




グラウンドに出た私は一定数の距離を取って全員の前に立つ。とりあえず一言言っておこう




「先に謝っておきます。すみませんでした」
「嫌な予感しかしないんだが」
「あ、五条先生はいつでも領域展開できるようにしておいてください」
「え、そのレベル?」
「クトゥルフなので」









――第三者視線――



ふぅっと、歌を歌い、呪霊を召喚する術式を持つ少女が息を吐き、地面に膝をついた。少女は、集中するように目を閉じ、右と左の指を絡め、まるで祈る様に額に押し付ける。今までにないその姿に少女を知る面々が息を飲み、しばらくその体勢で固まっていた少女の口が動いた。

…響く。少女の声が。良く通る、いつもよりも少し高い声で。


―――空高く 天仰ぐ 今宵 星 揃う時


歌いだして、異変はすぐに現れた。彼女を支える地、彼女の存在する空間が黒く染まり始めた。


―――祈り経(え)て 時を経(へ)て 眠りより 覚める神


空間が歪む。


―――やがて皆 例外な 存在を 識(し)るだろう


ぬるりと、まるで歌う誰かの存在を確認するように、タコのような吸盤の付いた触手は少女の首に、腕に、胸に、胴に、脚に、存在を確認するように触れ、絡みついた。


―――そして尚 真の名を 取り戻す 容赦なく


愛撫するようなその“何か”の動きが不意に止まり、いくつかの触手だった部分が別の生き物の形を取った。ピクリと少女の瞼が震えるが、歌は止まない。


―――痴(し)れ者が 統(す)べる地は 今一度 彼(か)の領土


ソレは蛇だ。触手に交じって何匹もの細く、長い蛇が少女の身体を服越しに這い回り、舌を出す。


―――夜空から 星降れば 終焉には あと僅か


ごくりと誰かが唾を飲み込んだ。本来なら背徳的な光景だ。触手と蛇に全身を好きに絡みつかれながら祈りを捧げるように跪く姿は、酷く淫靡なモノすら感じるだろう。けれどそれより先に、彼らの視点はただ一点に固定される。

恐れよ 恐れよ 恐れよ 恐れよ
崇めよ 崇めよ 崇めよ 崇めよ

闇より姿を現す、降臨するは旧支配者の神、二柱。その姿は歌が進むにつれはっきりと形作られ、彼らの脳内は警報を鳴らした、


―――“アレ”を目に入れてはいけない。


本能が否定する、アレの存在を否定する。ガンガンと痛む頭、湧き上がる嘔吐感。心の底から叫び、頭を打ち付けたくなるような感覚。


―――違う


そんな中、五条悟だけは冷汗を流しながら否定した。乾いたような笑いが漏れる。彼の六眼が正しく“ソレ”の存在を認知した。


――何がまがい物だ。アレは紛れもなく“本物”に近い。


いや、本物が作り出した“分身”だろう。そして、アレを媒体として”本物“も顕現しようと思えばこの世界に降臨する。闇鍋?そんな可愛い表現が赦されるものか。蟲毒だ。開ければ呪いが際限なくあふれ出す。パンドラのように、最後に希望など甘っちょろいモノが出てくるわけのない、本物の絶望。


―――“視る”な


可能ならこの六眼すら抉り取ってしまいたい。手が伸びた。潰してしまえと誰かが囁く。正気でないと自分でも分かっている。目を覆う布に指が掛かった。


パァンッ!!


ハッとする。グラウンドの中央にいた少女、外村ヨルが冷汗を流し、絡めていた手を合わせ、こちらを見据えていた。そこで気づく。自分が何をしようとしていたのか。彼女が何をしたのか。彼女は歌を途中で辞め、強制的に”アレ“を引っ込めたのだろう。

辺りを見回せば自分以外も数人、己の目に手を伸ばしている人間がいる。




「やめましょう。なぜか外に出たがってる闇鍋の具材が数体いるみたいです」
「その表現はやめない?」
「いえ、実際そうなのでーーって」




ぬるん。先ほど見た触手が彼女足元から生えて、全員の身体が条件反射で固まる。その触手は文字の書かれた白い紙をヨルに向けた。




【我は具材ではない】
【我は神である】
【そして我は黄金の蜂蜜酒を所望するぞ人の子】
「具材がなんか言ってる」




ぬるん。ぬるんぬるん

ペッタンペッタン!!ビチビチビチッ!!!

まるで抗議するように触手が増え、ダダをこねるようにビタンビッタンと跳ねまわった。中々エゲつない光景のはずだが、気にしていないヨルはしゃがみ込み、触手一つ一つにデコピンを行って強制退場させる。強かった。魚かこの触手。

触手がどこか悲壮感を漂わせながら消えれば、次は口に紙をはさんだ蛇の出現。蛇が一匹首を伸ばし、ヨルに紙を渡した




【不敬】
【喚んだなら最後までやれ】
【ハスターばかり贔屓しやがって】
【私だってたまには出たい】
【先に言うけど触手も蛇もセクハラだぞ】
【こんぷらいあんすとやらはどうした】




自由すぎる闇鍋の具材ども。失礼、六眼によって本物に限りなく近いと言われた分霊たちの抗議の声。別名旧支配者の面々からの抗議文。
その紙を目の前で破って見せれば蛇と五条は言葉を失った。仮にも神からの手紙である。




「召喚するたびに周りに恐怖をまき散らす君らは、そんなにやすやすと召喚できません」




足元から闇が一気に広がって抗議するかのような”黒”たちの一部一斉出現。バンバンバン、ビチビチビチッ、ガシャンガシャン。そんな抗議の一部出現を拍手一つで黙らせ、ヨルが全員に振り向いた。




「とりあえず解散しましょう」




この言葉に誰が異議を唱えられるのか。結局、【旧支配者の/キャロル】は余程のことがない限り歌うことを禁止されることとなる。妥当な結果であった。




















ちょっとした説明

旧支配者の神々は自分達を歌1つで召喚しようとする主人公に興味を持って、ほんの少しの常識と優しさを詰め込んだ(神基準)分霊を送り出し、彼女の“黒達”の仲間に入れました。しかし、そんな分霊たちも主人公に召喚された時点でいい感じに作り変えられてます。だから主人公には懐いてるし、顕現する時もある程度配慮はしてくれる。普通の人間なら耐えられないが、呪術師なら一柱の神をはっきり見ても耐えられる。二柱は無理。今回は自分が自分がと主張強いハスター様とイグ様が降臨しようとして主人公に強制退場させられた。触手も蛇もセクハラではなく、久しぶりに孫を可愛がってる爺()の図。


クトゥルフ神話とは、なんかヤベー神話。作者自身クトゥルフ神話知ってる友人の手を借りて書き上げたのでよくわかってない。

本家の旧支配者側の神をかなりかなりかなーりマイルドにしたのが夢主ちゃん宅の神様たちです。旧支配者の/キャロルを熱望される方が多かったので書きました。なんか違うなって思われるかもしれませんがここらで勘弁してください。

ちなみに旧支配者の/キャロルの”黒達”が本気を出せばヨルの力は暴走するし、自我すら一時期乗っ取られる。まあ、余程のことが彼らはそこまでしません


ちなみに一話で一番ヤバイのは『死◯たがり』と書きました。その理由として、まず、旧支配者達が本気を出すためにはヨル自身が『原曲』を歌わなければなりません。でもヨルは歌えないので本気を出す予定は今のところありません。その時点で彼らはダイレクトに人の悪意や現代人の闇深さを表現する『死◯たがり』には少し手が届きません。

でも悪意と恐怖は違います。悪意にたいし人間は対抗手段が少なからず存在しますが、恐怖というのは沸き上がり、感じるものです。私は悪意と恐怖なら恐怖の方が厄介だと思ってるので、原曲キャロルを完璧にヨルが歌えるのなら『死◯たがり』より旧支配者の方が強いんじゃね?くらいにはおもってます。

今のうちはこれくらいで「あ、そーなん?」と軽く流しといてください(*・ω・)ノ

歌詞の一部引用、日本語和訳は水月やまとさん使用しています。







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