歌を…番外編 | ナノ


▼ ××年後の話

 東京都内にある一軒家。その家の中にあるリビング。もっと言うなら家族四人が楽に腰かけることが出来るソファの上で、一人の女性が書類の束に目を通していた。
学生時代に比べれば少しだけ伸びた髪。その黒髪が女性の動きに合わせて揺れ、頬に触れた。不意に、書類に目を通すだけだった彼女の視線が自分の足元へと落ち、何かを確認するとまた書類に戻った。


【ぷっ、ぷぷぷぅ】


 女性が視線を書類に戻した瞬間、彼女の影が波紋を広げ、足元から黒い兎のような何かが飛び出し、女性の豊満な胸に飛びつく。自分に飛びついた兎に対し女性は何も言わず、そっと頭を撫でた。
己を優しく撫でるその手に合わせ兎の耳は垂れ、機嫌よく兎が鳴く。もっともっとと言うようにその”黒“は彼女に対して頭を押し付けた。


「ヨル」
「ん?」


 女性──、大人になったヨルに向けてキッチンの方から声がかかる。ひょっこりと、声の主が顔を出した。少しだけ薄い桃色のような、はたまた焦げ茶色のような短い髪。垢ぬけた、大人の男へと成長した虎杖が両手にコップを持ってヨルの方に近づく。
──ことん。
 控えめな音を立て、ココアの入ったコップがヨルの前に置かれ、虎杖も自身のコップを目の前に置き、ソファへ身を沈める。


「何の書類?」
「昨日の呪霊の報告書。コレ悠仁の」
「サンキュ」


 のぞき込む虎杖に対し、ヨルが柔らかな口調で返しつつ、束になっていた紙を半分手渡した。
 二人だけのリビングに紙を捲る音だけが響く。静かな時間。空気を呼んでか兎型の”黒“も鳴かず二人の様子を見守っていた。ちらりと虎杖の視線がヨルに流れ、唸った。

──綺麗に、なったよなぁ…。

 誰に言うわけでもない。ただ胸の中でそう零す。少し伸びた髪も、真剣に書類を捲る横顔も、自分にだけ向けられる眼差しも。彼女を構成するすべてが進化を遂げ、彼女の美しさを引き立てた。絶世の美女。誰もが振り返る整った容姿。そういうわけじゃない。そんな、誰もが見惚れるほどの美しさじゃない。ただ、ただ純粋に思うのだ。外村ヨルという存在はこの数年間で確かに花開いて見せた。呪術師としての才能も、女としての色香も。全部。
 そう思うだけで胸が苦しくなる。書類をテーブルに置き、左手でコップを持ち上げた。横に居る彼女はいまだ書類に夢中なようで、こちらをちっとも見てはくれない。
 何気なしに彼女の左手を見た。薬指に自分が送った指輪がはめ込まれていて、うれしくなる。ヨルの指が浮いた。真っ直ぐ目の前のコップに手が伸ばされるのを見て、虎杖の身体が動く。
 手にあったコップの中身を口に含め、右手でヨルの顎を掴み薄く開かせる。


「?」


 怪訝な表情を浮かべ、こちらを見上げるヨルに対し薄く笑みを浮かべ、そのまま覆いかぶさるように唇を合わせた。


「───ッ!!??」


 不意打ちだったのか、それとも合わせた唇から流れてくる流体に驚いたのか、ヨルの身体が大きく跳ね、右手に持っていた書類が音を立てて床に落下。
 口に含んだココアが少量で、ヨルの口へ流し込んだ虎杖自身はじゃれ付く犬の様に何度もヨルの唇を啄み、ソファへと押し倒した。もう流れる様な手際の良さである。


「?、??、???」


 目を回し、何が起こったのか分からないと言わんばかりの困惑をその顔に乗せ、ヨルが呆然と虎杖を見上げた。虎杖も虎杖で少し頬を膨らませながら言う。


「せっかくの休みだから、俺にも、構ってほしいなぁ、なんて…」


 ソファへと押し倒したヨルの額に口づけを落とし、虎杖はいまだヨルの胸元で甘える”黒“を掴み上げ、フローリングの床へとそっと下ろした。驚いたように虎杖を見上げる”黒”に対し、彼がちょっとだけいたずらっ子のような表情で口を開く。


「ごめん、ココは俺専用」
【ぷーーっ!!!】
「え、めちゃ怒んじゃん。でも今から俺の時間―」
【ぷっ!ぷぷっ!ぷぷぷ!!】


ぴょんぴょんぴょん!!抗議するように跳ねる兎の”黒“がヨルの影から伸びる手によって消えていき、リビングに静寂が舞い降りる。耳元でギッとソファが少し軋む音。その音に反応してヨルが顔を上げ、虎杖と目を合わせる。にっこりと、虎杖が微笑んだ。


「いちゃいちゃしませんか?」


───それ拒否権ないやつでは?
その問いかけは虎杖の口付けによって封じられ、大人の時間が幕を開けた。
ちなみに余談ではあるが、彼らのいちゃいちゃ(意味深)は日が暮れるどころか日が昇るまで続き、ヨルの身体的危機を察知した”黒“によって中断させられることとなる。










数年後ヨル:大人の色気を手に入れた。胸がかなり大きくなり、蠱惑的な身体付きになってる。一重に虎杖の努力の結果。太ってるとかいうわけじゃない。まだ恋人。そろそろ結婚する。虎杖と同棲中。

数年後虎杖:恋人は可愛いし、宿儺はうるさくないし、腐ったミカンは革命によって一掃されたので滅茶苦茶人生イージーモード。体力お化けの為、いちゃいちゃ(意味深)では基本的にヨルが死にかける。ヨル自身が仕事>>>虎杖なため、フラストレーションがたまり抱き潰すことが多々ある。将来的に子供がたくさんできる未来が待っている。



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